イタリア研究会◇事務局からのお知らせ

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例会速報2014-12-17(水)

第414回例会
・日時:2014年12月16日(火)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4F大会議室
・講師:長本 和子 イタリア食文化研究家 リストランテ カシーナ カナミッラ経営
・演題:イタリア料理人OTTIMO育成法
 イタリア研究会の第414回例会が行われました。講師はイタリア食文化研究家で中目黒の「リストランテ・カシーナ・カナミッラ」を経営している長本和子さん,演題名は「イタリア料理人OTTIMO育成法」でした。長本さんはピエモンテ州のドモドッソラで料理学校ICTを運営し,有名シェフを多数育ててきていますので,多くの方が彼女の弟子ともいうべきシェフたちの料理を食べたことがあるはずです。長本さんは,そもそもイタリア料理とは何であるか,イタリア料理とフランス料理の違いは何なのか,という基本的なテーマから話を始めました。そしてカテリーナ・ド・メディチがフランスへと持ち込み,フランス料理の元となったとされている料理は,あくまで「クチーナ・リッコ」すなわち貴族料理であり,現在のイタリア料理は「クチーナ・ポーヴェラ」すなわち庶民料理であると喝破し,その事を押さえるのが重要であると強調しました。したがってイタリア料理の基本はマンマの作る料理であり,「そこにある物」を用いるので,そこからイタリア料理の基本である郷土性と季節性が生じてくると解説してくれました。そして料理人の育成においても,料理の背後にある文化を学んでもらい,実際に現地で料理や食材を体験することにより,料理人の卵たちが大きく成長して行く事を明らかにしてくれましたが,こうした技術に偏らない教育は,料理人に限るものではなく,人材育成法としてもっとも重要な点であり,多くの聴衆に感銘を与えたことと思います。講演終了後には,多数の質問があり,懇親会でもいつまでもイタリア談義,イタリア料理談義が続きました.長本さん,面白いお話しをありがとうございました。(橋都)

第413回例会
・日時:2014年11月17日(月)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:伊藤亜紀 国際基督教大学
・演題:盛装アマゾネス
 −サルッツォのマンタ城壁画「9人の英雄と9人の女傑」の紋章と服飾−
 11月17日に,イタリア研究会第413回例会が開かれました。講師はイタリア服飾史の研究家で国際基督教大学教養学部教授である伊藤亜紀さんです。演題名は「盛装アマゾネス−サルッツォのマンタ城壁画《9人の英雄と9人の女傑》の紋章と服飾−」でした。サルッツォはピエモンテ州にある都市で,かつては独立した都市国家でしたが,サヴォイア公国に取り囲まれていたため,それに対抗しなければならない意味もあり,フランスとの関係が大変深い国家でした。そこにあるマンタ城のサーラ・バロナーレの壁面に描かれた壁画の,文化史的な解析が主題です。この壁画にはヘクトール,アレキサンダー大王,アーサー王など9人の英雄も描かれているのですが,それよりも興味深いのが,9人の女傑たちです。彼女たちは英雄たちに較べると知名度が低いのですが,その典拠はフランスのバラードにあります。伊藤さんは,彼女たちの服装や紋章を分析することによって,この城の持ち主であったヴァレラーノ・ディ・サルッツォの教養や文化的な背景がイタリアよりもフランス的であることを示しました。また彼女たちが女傑と呼ばれながら,武装した姿では描かれておらず,きわめてフェミニンに描かれていることから,この時代(15世紀前半)の女性の社会的な位置づけについても考察されました。こうした美術史的に必ずしも有名ではない作品の分析からも,多くのことが見えてくる文化史の面白さを味わうことのできた講演でした。伊藤さん,ありがとうございました。(橋都)

第412回例会
・日時:2014年10月15日(水)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:桑木野 幸司 大阪大学文学部准教授
・演題:初期近代イタリアの百科全書的庭園
 第412回イタリア研究会例会の演題は「初期近代イタリアの百科全書的庭園」,講師は大阪大学文学研究科准教授の桑木野幸司さんでした。桑木野さんは,建築史の研究者ですが,単なる構造物としての建築の歴史ではなく,知の表れとしての建築,庭園に興味を持っており,それが現在の研究テーマであるヨーロッパとくにイタリアの初期近代の庭園の研究に結びついているという事です。初期近代とは,15世紀末から17世紀初頭を言い,この時期には,古典文明の再発見(いわゆるルネッサンス),新大陸の発見,印刷術の発明などにより,ヨーロッパ人の持つ知識・情報量が飛躍的に増加しました。それにより,彼らはその知識・情報を何らかの形で整理する必要に迫られました.そのひとつの手段が記憶術ですが,桑木野さんは,記憶術と当時の庭園との間に関連があるのではないかという未開のテーマに挑んでいます。庭園と記憶術との関連としては,記憶術に用いられる記憶を載せる場(ロクス)としての庭園の役割と,人間の頭脳の内容を投影し,他の人たちにも見える形にするための庭園という2つの役割があります。桑木野さんは,後者の例として,アゴスティーノ・デル・リッチョの庭園論を取り上げ,彼の描く庭園が百科全書的な拡がりと構造を持っている事を示しました。そして一般には記憶と創造性とが相反するもののように考えられているが,記憶なくして創造性はないと,講演を締めくくりました。参加者も,このテーマには非常に興味を覚えたようで,講演後には,さまざまな質問が出ました.桑木野さん,刺激に満ちた講演をありがとうございました。今後もさらに研究を続けて頂きたいと思います。 (橋都)

第411回例会
・日時:2014年9月24日(水)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:辻 昌宏,明治大学文学部教授
・演題:はじめにリブレットあり
 第411回のイタリア研究会例会が開かれました。講師は明治大学教授でイタリア研究会会員でもある辻昌宏さん,演題名は「はじめにリブレットあり」でした。辻さんはイタリアの詩の研究者でもあり,オペラのリブレット(脚本)のとくにアリアの部分が,詩としての定型や韻律を守っている事から,リブレット,リブレッティスタにも興味を持つようになったという事です。元々はオペラの制作において,作曲家よりも脚本家が主導権を握っていたのが,ヴェルディのキャリア後半あたりから作曲家の力が上回るようになり,とくにプッチーニは作曲に時間をかけ,ときには脚本家が書いた脚本を自分で修正してしまう事もあったようです。そのひとつの理由として,オペラ制作のプロデューサーが劇場支配人から楽譜出版社へと変わり,作曲家に時間的,金銭的余裕ができた事が大きいという事です。辻さんは,プッチーニの「ラ・ボエーム」の第1幕で歌われる有名な2つのアリア「Che gelida manina(冷たい手を)」と「Mi chiamano Mimi(私はミミ)」を例に取り,歌詞で韻を踏んでいる部分をプッチーニがいかに印象的に曲を作っているかを示してくれました。オペラを鑑賞するにあたって,曲だけではなく,リブレットにも関心を持てばさらに面白さが拡がりそうです。辻さん,どうもありがとうございました。(橋都)

第410回例会
・日時:2014年8月22日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:小林 明 日本経済新聞編集委員
・演題:イタリア外交の秘話
 8月22日にイタリア研究会第410回例会が開かれました。講師は日本経済新聞ミラノ支局長を長く務めた,現編集委員の小林明さん,演題名は「イタリア外交の秘話」でした。小林さんは留学期間を含めると6年間ミラノに滞在しており,その間にイタリアの政治・外交のさまざまな変動にも立ち会ってきました。そしてイタリアが他国はできないような外交上の役割を果たすのを目撃したのですが,そのひとつが対北朝鮮外交でした。イタリアは2000年1月に,他のヨーロッパ諸国に先がけて北朝鮮と国交を樹立しました。それにはさまざまな理由があるのですが,ローマにある国際連合食料農業機関(FAO)に北朝鮮が代表を常駐させていたことが,大きく影響していると考えられます。もしこの年のアメリカ大統領選挙で民主党の候補ゴアが勝っていたら,北朝鮮を巡る世界情勢は大きく変わっていたかもしれません。またもう一つの話題は,イタリア財界の陰の立て役者であったエンリコ・クッチャに関するものでした.彼は2000年に亡くなっていますが,亡くなる直前まで「株は数ではない,重さである」という信念の元,クモの巣のような持ち株組織を作り出し,イタリア経済を裏から牛耳っていました。彼はそれにより,イタリアの企業を外資から守っていると自負していました。しかし現在ではグローバル化により,イタリア企業もよりオープンな形で世界市場で勝負するようになってきました。その意味でクッチャの死は,ヨーロッパでも特殊な位置を占めていた。ファシズム時代から連続する,完全な自由市場とは異なった戦後イタリア経済の終焉を象徴していたと考えられます。(橋都)

409回例会
・日時:2014年7月25日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:彦坂 裕 ミラノ万博日本館企画委員長
・演題:EXPOとイタリア
 イタリア研究会第409回例会のテーマは「EXPOとイタリア」,講師は建築家でミラノ万博日本館の企画検討委員会の座長を務めておられる彦坂裕さんです。彦坂さんは,2005年の愛・地球博でも,2010年の上海万博でも,日本館で中心的な役割を果たされた経験をお持ちです.彦坂さんは,万博というものが,現在では近代オリンピック,FIFAワールドカップ,F1と並ぶ国際的なイベントシステムとなっていること,その中でも参加の意思さえあれば,どこの国でも,どの企業でも参加が可能という点で,特異な位置を占めていることを示されました。そしてかつては先進的な技術やものを展示するのが,第一の目的であった万博が,インターネットで誰でもが世界の情報を得られるようになった現在では,参加者が地球の共通の問題点を共に考えるというメディアに変化してきていることを示されました。2015年のミラノ万博は,「食」が取り上げられる最初の万博ですが,食といっても美食だけではなく,食物の廃棄や食物の流通,さらには気候変動による食糧不足や飢餓といった食の負の部分も取り上げられるはずということです.彦坂さんの見るところでは,日本館のライバルはドイツ館,サウジアラビア館だそうです。どんな万博になるか,大いに期待されます。彦坂さん,ありがとうございました。 (橋都)

408回例会
・日時:2014年6月11日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:秋山 聰(あきら) 東京大学文学部教授
 イタリア研究会第408回例会が開かれました。演題は「デューラーとイタリア」,講師は東京大学大学院人文社会系研究科教授の秋山聰(あきら)先生です.秋山先生はデューラー研究の日本の第一人者で,多くの賞を受賞されています。デューラーは若い頃の修業時代と,ある程度の名声を得てからの2度,ヴェネツィアを中心として,イタリアを訪れています。秋山先生は1505年から1507年にかけての2度目のイタリア旅行を中心として話を進めました。そのお話のひとつのテーマが,デューラーの描いた“蠅”です.デューラーはこのイタリア滞在中の1506年にヴェネツィアの教会に祭壇画「ロザリオの祝祭」を描きました。この絵の中には,デューラーの自画像とともに,聖母子の膝の部分に,なんと蠅が描かれていました(その後の修復で消失)。秋山先生は,この蠅が単なるテクニックの誇示や,観客を楽しませるためのだまし絵ではなく,デューラーの自意識の表れではないかとの考えを述べられました。そしてデューラーが自分の早描きの能力を誇示するような作品を残している事とその絵の中のラテン語碑銘の文体を考慮すると,遅描きで有名であったため,古代の画家の中では遅筆で有名であったプロトゲネスに擬されたレオナルド・ダ・ヴィンチに対する対抗意識をデューラーは持っていたのではないかという説を提示されました。そうするとデューラーは,同じく古代の画家の中では速筆で有名であったアペレスに自らを擬していた可能性があります。そう考えると,デューラーは天才的なデッサン力だけではなく,プロモーターとしても高い能力を持っていた事になります。それを強調しすぎると,デューラーが嫌みな人間に思われてしまいますが,当時の画家は,職人であると同時にプロデューサーでもあったことを忘れると,芸術というものを誤解する可能性がある事を,秋山先生は強調されたました。秋山先生,大変面白いお話をありがとうございました。 (橋都)

407回例会
・日時:2014年5月23日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館2F大会議室
・講師:和田 忠彦 東京外国語大学
・演題:ことばの窓から見える世界-須賀敦子の場合
 5月23日(金)にイタリア研究会第407回例会が行われました。演題名は「ことばの窓から見える世界−須賀敦子の場合」でした。じつはこれまでにもイタリア研究会会員から,ぜひ須賀さんの話をして欲しいという要望が多くよせられていましたが,残念ながら適当な講師が見つからず,見送られてきました。ところが今回,東京外国語大学の和田忠彦教授が,須賀敦子について話をしてくださることになったので,会にとっては画期的なことです。和田さんは,自分の母国語以外で創作を行う“エクソフォニー”をキーワードに須賀の創作に迫りましたが,須賀がタブッキを敬愛し,彼の作品の邦訳を多数手がけたのも,この点での共通性が影響していると考えられます。また時代として,学生紛争が社会全体に影響を与えた1960年代のイタリアに身を置いたことが,須賀のやや年上の同時代人ナタリア・ギンズブルグに対する生涯変わらぬ敬愛の念の元となったと思われます。日本でカトリック教育を受けて受洗し,フランスに渡ったものの違和感を感じて,イタリアに移り,そこで伴侶を得て多数の日本の文学作品のイタリア語訳に携わり,伴侶が亡くなった後,日本に戻ってイタリア文学の翻訳と,本格的な創作活動を行ったという,日本人としては珍しい須賀の特異な経歴は,日本とヨーロッパとの関係を考える上で大きな示唆を与えるものと思われます。和田先生は,彼女が亡くなる直前に「私は死ぬときには,何語で死ぬのかしら」と語ったというエピソードを披露されましたが,そのようにして彼女が感じていたある意味の居心地悪さこそが,貴重なものであり,須賀が現在でも広く読まれている大きな理由であるとも考えられます。いずれにしても,須賀敦子という存在は,日本とイタリア,日本とヨーロッパを考える上で,かけがえのないものであるといえるでしょう。今回の講演を聴いて,また須賀敦子の著作,翻訳を読み返してみたくなった会員も多かったのではないでしょうか。和田先生,たいへん面白い示唆に富むお話しをありがとうございました。 (橋都)

406回例会
・日時:2014年4月21日(月)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4F大会議室
・講師:小山 吉亮 神奈川大学
・演題:ファシズムと「不完全な全体主義」
 4月21日,イタリア研究会第406回の例会が開かれました。講師は新進気鋭の政治学者,小山吉亮(おやまよしあき)さん,演題名は「ファシズムと『不完全な全体主義』」でした。ムッソリーニによるイタリアのファシズムは,ナチスドイツやスターリンのソ連に較べると,全体としては中途半端であり,その理由を,ムッソリーニ個人の資質やイタリア人の気質に帰する傾向があります。しかし小山さんは,そもそも完全な全体主義が実際に成立することはありえず,それは単なる目標に過ぎないこと,イタリアのファシズムも完全な全体主義を目指していた点では,変わりがないことを示されました。そしてそこには限定的ではあっても,自由な議論を推進しようという考え,一気に変革を行うのではなく,青年を教育することによって,長いタイムスパンでファシズムを定着させようとする考えがあったことを指摘されました。結局,イタリアのファシズムは議会制度の改革に失敗し,国王の権限をコントロールできずに,破滅への道をたどります。しかし誰もムッソリーニが権力を握るとは思っていなかったのに,議会での膠着状態から,どの党派も政権を確立することができず,ファシストの台頭と権力の掌握を許してしまったことは,われわれにも大きな教訓となるように思われます。小山さんのお話は,じつに明快で,またわれわれのこれまでのファシズム概念を覆すような,じつに興味深いものでした.小山さんありがとうございました。 (橋都)

405回例会
・日時:2014年3月24日(月)19:00-21:00
・講師:前川佳文氏(壁画保存修復士)。
・演題:壁画保存修復の世界―イタリア芸術の偉大さとルネッサンス
・会場:南青山会館2F大会議室
 3月24日の第405回イタリア研究会例会のテーマは,フレスコ画修復のお話でした。講師は15年をイタリアで過ごし,修復学校を卒業した後には,日本人として初めてのプロの壁画修復士として,多数のフレスコ画修復に携わった前川佳文さん,演題名は「壁画保存修復の世界—イタリア芸術の偉大さとルネサンス」でした。かつて日本のテレビ会社がスポンサーとなって,ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画の修復が行われ,話題になったことは,多くの方が覚えておられると思います。前川さんは,中学生の時にそのテレビ番組を見て感激して,その気持ちをそのままに保ち,大学卒業後にイタリアに渡ってプロの壁画修復士となったという,すばらしく感動的な経歴の持ち主です。前川さんは,壁画の歴史,フレスコが生まれることになった経緯とその科学的な根拠から話を始めましたが,とくに初期ルネッサンスの画家ジョットが果たした大きな役割を強調されました。かれがフレスコの技法を完成したことによって,イタリア全土で共通の技法が用いられるようになり,現在の修復もそれによって可能になったという事です。イタリアでは修復の倫理も研究されており,恣意的な修復はきびしく諫められ,修復を行う場合にも,後世の人間がオリジナル部分と修復部分とを区別できるようにすることが求められ,そのための特殊な技法も開発されているということです。またフレスコ画のいちばんの敵は水分とそこに含まれる塩素だそうです.それを除去する方法も編み出されており,まさに人間の病気の診断・治療と同じだと,前川さんは言っていましたが,まさにそのとおりだと思います。現在の最大の問題点は,イタリア経済の不調で,そのために美術修復の予算が付かず,前川さんも,仕事があっても給料未払いが続いたために,後ろ髪を引かれる思いで日本に戻ったという事ですが,ラファエロが関与している可能性を指摘されているフレスコ画の修復のため,今年は戻る予定だとのことで,その話をする前川さんは本当に楽しそうでした。たいへんな仕事だとは思いますが,好きなことを仕事として行うことのできる喜びが,聴衆にも伝わってくる,素晴らしい講演であったと思います。 (橋都)

404回例会
・日時:2014年2月7日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:粉川 妙(イタリアの食・スローフード研究家,ライター)
・演題:イタリアのDOPの歴史と仕組み,その実際
 2月7日(金)にイタリア研究会第404回例会が開かれました。今回のテーマはDOP(畜産,農業の産物と加工品の原産地呼称制度)で,講師はスポレートに在住のイタリアの食研究家・粉川妙さんでした。DOPという言葉をご存じない方でも,チーズのパルミジャーノ・レッジャーノやパルマの生ハムといった代表的な例を挙げれば,なるほどと分かると思います。特定の産地で伝統的な作り方を守って制作されている食品を守るための制度です。これにより生産者も消費者も守られ,伝統的な製法が保存されることになるのです。現在ではEUによって規定されていますが,イタリアはフランスをしのいで最大の品目数を持っています。粉川さんは,このDOPの歴史や機構とともに,それが実際にどのような人たちによって作られ,守られているかを,Balze Volterrane のペコリーノ・チーズ,Colonnta のラルド,Monteleone di Spoleto のスペルト小麦といった,ご自分が実際に現地を訪れて見聞したDOPの例を挙げてお話しをしてくださいました。これらの地域での,官と民とが共同して,特産品を守り育てようという姿勢は,日本の農業の今後に対しても大きな示唆を与える様に思われました。粉川さん,面白く美味しそうなお話しをありがとうございました。 (橋都)

403回例会
・日時:2014年1月17日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:石鍋 真澄 成城大学
・演題:支倉常長の旅,肖像画の謎
 イタリア研究会第403回の例会が開かれました。演題名は「支倉常長の旅,肖像画の謎」で,講師は成城大学教授である美術史家の石鍋真澄先生でした。支倉常長が,伊達政宗の命を受けてヨーロッパに向けて,牡鹿半島の月浦を出航して昨年で400年でした。それを記念して,さまざまな催しが行われましたが,じつはこの慶長遣欧使節団については,資料が少なく,分からない点も多いのです。それは使節団が送られたのが,家康によるキリスト教禁教令の前年というきわめて微妙な時期であり,帰国した時にはすでに日本は鎖国へと向かっており,諸手を挙げて歓迎されたわけではなかったという事情によります。石鍋先生は,豊富なスライドで支倉の旅をたどるとともに,彼の置かれた微妙な立場,その中で誠実に任務を全うしようとした姿を生き生きとよみがえらせてくれました。また仙台市とローマにある彼の肖像画について,その作者を同定するとともに,とくに仙台市の肖像画に見られる特殊性について,解説をしてくださいました。当日は支倉常長の末裔に当たる支倉さんも仙台から駆けつけてくださり,講演会の後の懇親会でも,遣欧使節団について,また東西文化交流について,遅くまで話の輪が広がっていました。石鍋先生,ありがとうございました。 (橋都)

402回例会
・日時:2013年12月20日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:村松 真理子(東京大学)
・演題:ダンヌンツイオに夢中だった頃
 12月20日に2013年最後のイタリア研究会第402回の例会が開かれました。今年2013年はイタリアの詩人・作家であるガブリエーレ・ダンヌンツィオの生誕150周年です。東京大学でも駒場キャンパスを中心に,ダンヌンツィオをテーマとした展覧会,シンポジウムなどさまざまな催しが行われました。その中心となって活躍された東京大学総合文化研究科准教授の村松真理子さんに「ダンヌンツィオに夢中だった頃」という題でお話をお願いしました。ちなみにこの題は,13日まで東京大学駒場博物館で行われていた展覧会と同じ題名です。
1863年にアドリア海沿岸の小さな街ペスカーラで生まれたダンヌンツィオは19738年に,彼の最後の作品と言って良い,ガルダ湖畔の邸宅とも建築複合体とも呼ぶことの出来るヴィットリアーレで亡くなりました。この年号を見れば分かるように,彼は近代イタリアの誕生とともに生まれ,統一イタリアがムッソリーニの指揮の下に破滅的な戦争へと進む直前に亡くっています。そのため彼はイタリア国民からは,まさに近代イタリアの発展の象徴と目され,彼自身もそれを意識してプロモーションしたことが,生前に得た絶大な人気のひとつの原因と思われます。もちろん彼が美しいイタリア語を作り出すために,自らのロマンス語の知識を生かして奮闘したことも忘れてはなりません。
 村松先生は,華麗な女性遍歴を重ねながら次々とベストセラーを生み出したダンヌンツィオの生涯と,ムッソリーニとの微妙な関係,当時の日本の知識人に与えた,現在からは考えられないほどの多大な影響を,たいへん面白く語ってくださいました。とくに展覧会で展示されたヴィットリアーレ財団からの提供によるダンヌンツィオの軍服,靴,日本との交流を示す書簡,彼の提唱によるイタリアから日本への初飛行の航路図などの映像には,多くの方が興味をそそられたようです。村松先生,ありがとうございました。(橋都)

第401回例会
・日時:2013年11月29日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館(表参道)
・講師:Giorgio AMITRANO(イタリア文化会館東京館長)
・演題:あるイタリア人の個人的体験としての日本
 イタリア研究会第401回の例会が開かれました。講師は日本文学の翻訳者としても活躍しているイタリア文化会館東京館長のジョルジョ・アミトラーノさん,演題名は「あるイタリア人の個人的体験としての日本」です。もともと英語が得意で英文学に興味を持っていたアミトラーノさんが,ナポリ東洋大学に入学した時に,日本語を選択したのは,全くの偶然,気まぐれであったということですが,それには黒澤明の映画が好きであったご両親の影響もあったようです。入学後には日本文学のイタリア語訳を読みふけり,とくに川端康成と中島敦に惹かれたということです。そして卒論のテーマとして中島敦を選び,資料探しを目的に日本に来たことが,彼の転機になりました。初めてでありながら,懐かしさを感じリラックスすることが出来た東京の街と,須賀敦子さんに出会ったことが,アミトラーノさんのその後の人生を決定づけたのです。そしてご自分の最初の日本文学の翻訳として「中島敦・短編集」を出版し,さらに須賀さんに勧められた吉本ばななの「キッチン」を世界で初めて外国語訳をして大成功をおさめました。その後は,村上春樹の小説など多数の現代日本文学の翻訳を行い,多くの翻訳賞を受賞されています。美しく格調高い日本語で語られたアミトラーノさんの個人史は,最後にリズムの美しい宮沢賢治の詩「雨にも負けず」のイタリア語訳の朗読で締めくくられました。アミトラーノさんの素晴らしいお話に,参加者一同が感動し,質問が続出しました。参加者との日本文学談義は,その後の懇親会でもいつまでも続きました。アミトラーノさん,本当にありがとうございました。 (橋都)

第400回記念講演会
・日時:2013年10月6日(日)14:00~16:00
・場所:国際文化会館・講堂(六本木)
・講師:青柳 正規(文化庁長官、元国立西洋美術館館長)
・演題:イタリアと私
 10月6日日曜日,イタリア研究会の第400回記念例会・祝賀会が六本木の国際文化会館で開かれました。
 イタリア研究会,当時はイタリア問題研究会と呼ばれていましたが,の第1回例会は1976年9月26日に開かれ,それから37年を経て,めでたく400回の例会を迎える事が出来ました。当日はそれを記念して記念例会と祝賀会が開かれたわけです。14時から行われた記念例会の講師は,東大名誉教授・前国立西洋美術館長で,今年7月に文化庁長官に就任された青柳正規さん,演題名は「イタリアと私」でした。
 1969年に東京大学文学部大学院修士課程を終えた青柳さんは,すぐにローマ大学に留学して,西洋史学,古典考古学の勉強を始めました。ラテン語を自由に読みこなすヨーロッパ出身の学生たちとの古典教養の格差に愕然としながらも,着実に学問を身につけていきました。そして持ち前のバイタリティーと,人を味方に付ける人柄とを武器に,実地での調査を開始して,最初はポンペイでの発掘を行いました。それに次いで,シチリア島のアグリジェント近くのレアルモンテ,エトルリア地方のタルクィニアの発掘調査を行い,そして2004年からはヴェスヴィウス山の北側にあるソンマ・ヴェスヴィアーナの発掘を継続しています。ここからは女性像とバッカス像の2体の非常に美しい大理石彫刻を発見して,大きな話題となりましたが,さらに多くの遺物から,この遺跡が埋没した5世紀にも,この地方と地中海各地とが,交易によって結ばれていた事を証明し,蛮族の侵入により荒廃した末期のローマ帝国,というイメージを覆すという重要な成果を上げています。
 講演後に多くの質問が出ましたが,青柳さんは,実地の発掘調査が考古学には何よりも重要である事,日本もこの分野で大きな功績を残してきたし,今後も残す事ができるので,若い日本人がこの分野に参加する事を希望していると述べておられました。青柳さん,400回記念例会にふさわしい素晴らしいお話をありがとうございました。(橋都)

第399回例会
・日時:2013年9月26日(木)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:香原 斗志 オペラ評論家
・演題:生誕200年,ジュゼッペ・ヴェルディの虚像と実像
 イタリア研究会第399回例会が開かれました。今年がヴェルディ・イヤーであることを記念した講演で,演題名は「生誕200年,ジュゼッペ・ヴェルディの虚像と実像」,講師はオペラ評論家の香原斗志さんでした。ヴェルディと言えば,それまでのオペラとは違ったダイナミックで力強いオペラを作り出した作曲家で,とくに「ナブッコ」を始めとしたオペラが,当時のイタリア人の愛国心を刺激して,祖国統一の原動力のひとつともなった,というのが定番の解釈だと思います。しかし香原さんは,少なくともナブッコの初演の時には,愛国心の熱狂的な盛り上がりはなかった事,直後に行われたいわば敵国であるオーストリアのウィーンでも好評を博した事を考えると,ヴェルディ・イコール,リソルジメントの作曲家というのは,後に作られた伝説と考えられるとの,最近の研究成果を示されました。またダイナミックなオペラ作家という点に関しても,最近刊行されつつあるヴェルディ全集では,彼がこれまで考えられていたよりも,細かい強弱の指示を付けており,ロッシーニやドニゼッティの伝統を踏まえた装飾的な歌唱法も身につけていた作曲家である事が分かってきたと言う事です.最後に聴いたバロックオペラを得意とするソプラノのSimone Kermes の歌う「イル・トロヴァトーレ」のレオノーラは,まさにわれわれのヴェルディ感を覆すものでした.香原さん,面白いお話をありがとうございました。 (橋都)

第398回例会
・日時:2013年8月5日(月)19:00-21:00
・場所:南青山開館2階大会議室
・講師:宮嶋 勲 ワインジャーナリスト
・演題:料理とワインを通してみるイタリアの豊かな多様性
 イタリア研究会第398回の例会が行われました。演題は「料理とワインを通して見るイタリアの豊かな多様性」で,講師はワインジャーナリストの宮嶋勲さんです。宮嶋さんはイタリアの文化,料理,ワインの多様性の源泉が,まずは南北に長く,しかも中央に山脈が走っているという地理的な特長と,19世紀まで政治的に統一されずに,各地が異なった支配者,政治体制の元にあったという歴史的な特長とにあることを示されました.これがワインにおいても,フランスワインに特徴的な,ピラミッド型ヒエラルキーに従わない,地方独特の品種と製造法による,多様なワインを生み出していることを,明らかにしてくれました。そしてワインの醸造で最も重要とされるテロワールとは,土壌と気候だけではなく,作り手の心も含めた概念であること,イタリアにおいても各州の県民性(州民性?)がそれぞれ特徴的なワインを生み出す元になっていることを,軽妙な話術で語られ,会場は笑いに包まれました.最後に述べられた「ワインは舌だけで味わう物ではなく,頭でも味わう物です」という言葉は,皆さんの心に響いたのではないでしょうか。じつはこの日,前もってお知らせはしませんでしたが,3種類のイタリアワインの試飲が講演中に行われ,講演終了後には,このワインの購入も可能でしたので,多くの方が購入されたようです.宮嶋さん,ワインを提供して下さったフード・ライナーさん,ありがとうございました。 (橋都)

第397回例会
・日時:2013年7月25日(木)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:鈴木 国男 共立女子大
・演題:ヴェネツィアのカーニバルと演劇
 7月25日,イタリア研究会第397回例会が開かれました。演題名は「ヴェネツィアのカーニバルと演劇」,講師は演劇史,演劇論がご専門の共立女子大学教授鈴木国男先生でした。鈴木先生は,ギリシャからイタリアバロックまでのヨーロッパの劇場と演劇の変遷を90分にまとめて話すという離れ業を演じられましたが,これがじつに面白い内容でした。現在のヨーロッパのオペラ劇場がなぜあのような形になったのか,そこには劇場の歴史と演目の内容の変化が深く関わっています。そして演劇文化の中心であったイタリア,中でも18世紀の滅亡寸前のヴェネツィア共和国にヨーロッパ中から享楽を求めて,多くの人々が集まり,仮面で自らのアイデンティティを隠しながら,カーニバルと演劇とを楽しんだわけです。こうしたお話の中に「オペラはギリシャ悲劇の誤解から生まれた」「ゴルドーニは18世紀の三谷幸喜である」といった警句がちりばめられ,大変に刺激的で面白い講演でした.鈴木先生ありがとうございました。(橋都)

第396回例会
・日時:2013年6月14日(金)19:00-21:00
・場所:南青山会館2階大会議室
・講師:池上 英洋 東京造形大学
・演題:レオナルドと神秘思想ー作品調査の現場から
 南青山会館にて第396回例会が行われました。講師は東京造形大学准教授の池上英洋先生で演題は「レオナルドと神秘思想ー作品調査の現場から」でした。今回のご講演内容は多分にオフレコ的要素があり、MLにも詳細には書けませんがレオナルドの作品とされているある作品の真贋に関するフランスの調査チームとの共同研究の成果を学術的歴史的事実、また科学的調査の結果などをもとに説明され、また晩年のレオナルド、レオナデルスキと呼ばれる彼の弟子、追随者たちが作品に示した両性具有性と当時の王朝で研究されていた錬金術、グノーシス主義との関連性について「洗礼者ヨハネ」を中心に様々な作品、スケッチ画などを示しながらご説明くださいました。テレビ番組をみているかのような流暢なプレゼンテーションで私だけでなく聴衆の皆様も大いに楽しめたのではないでしょうか。池上先生、ありがとうございました。 (岡田)

第395回例会
・日時:2013年5月24日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:桐山 登士樹 株式会社TRUNK代表 デザインディレクター
・演題:デザインと対話による日本とイタリアの新たな関係づくり
 イタリア研究会第395回例会が開かれました.テーマは久しぶりにデザインで,演題名は「デザインと対話による日本とイタリアの新たな関係づくり」,講師はデザインディレクターで株式会社TRUNK代表の桐山登士樹さんです。桐山さんはデザイン系の雑誌の編集の仕事をしていた時に,イタリアデザインと出会い,イタリアのデザイナーを使ったデザインプロジェクトを作り出すとともに,イタリアデザインの展覧会を多数プロデュースして,イタリアデザインのすばらしさを日本に紹介する事に力を尽くしました.そして2004年以降は,ご自分でデザインをプロデュースするに至り,56年の歴史を持つ総合デザイン展「ミラノ・サローネ」で,トヨタLEXUSやキャノンのデザインを担当しました。現在,イタリアのデザインは,国の経済の停滞の影響を受けて,一時よりも地盤が低下している事は否定できないという事です.そのために,イタリア人デザイナーたちも,イタリア以外のヨーロッパ諸国で仕事をするようになってきています.しかしやはりイタリアデザイン界には底力があり,今後はBRICSなど新興諸国からの資本も受け入れて,再生して行くだろうという事です.そのきっかけになると期待されているのが,2015年にミラノで行われる万博で,桐山さんはここで日本館の総合プロデューサーを務められるという事ですので,楽しみです.講演終了後は,「なぜイタリアのブランドは付加価値の高い製品を生み出す事ができるのか」「イタリアデザイン界の停滞の原因は,イタリア経済だけなのか」など多くの質問が出て,活発な議論が行われました.桐山さん,面白いお話をありがとうございました。 (橋都)

第394回例会
・日時:2013年4月12日金曜日19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:村上信一郎
・演題:死産だったイタリア第二共和制―ベルルスコーニ,モンティ,グリッロ
 4月12日にイタリア研究会第394回例会が開かれました.イタリアでは2月に総選挙が行われましたが,いずれの政党も多数派を占めることができず,組閣できない異常事態が続いています。今回の例会は,現在のこのイタリアの政治状況を主題に,「死産だったイタリア第二共和制―ベルルスコーニ,モンティ,グリッロ」と題して,神戸外国語大学教授・村上信一郎先生を講師として行われました。村上先生は,いつもながらの軽妙なお話ぶりで,戦後の共和国憲法の成立から,キリスト教民主党時代,ベルルスコーニ時代,そしてついにベルルスコーニ時代が終わったと考えられるこの選挙までのイタリア政治の流れを分かりやすくお話しくださいました。そしてインテリ層にはわかりにくいベルルスコーニの人気の秘密,今回の総選挙の唯一の勝者と考えられるベッペ・グリッロの五つ星運動の持つ意義についても解説してくださいました。これからのイタリア政治がどうなるか,誰にも予想が付かないようです。われわれも目を離すことができません。(橋都)

第393回例会
・日時:2013年3月18日(月)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:水野 千依 京都造形大学
・演題:ラファエロの芸術:展覧会に寄せて
 イタリア研究会第393回の例会が開かれました。現在国立西洋美術館で開かれている「ラファエロ展」にちなんだ「ラファエロの芸術:展覧会によせて」という演題で,講師は京都造形芸術大学教授の水野千依先生です。先生は今回の展覧会に出品されているラファエロの作品を中心として話を進められましたが,師匠であるペルジーノの影響が著名であった初期の作品から,ルネッサンス芸術の美の概念を確立したとも言える中期の作品,そして複雑なイコノロジーを含み,またマニエリスムへ一歩踏み出したとも見える晩年の作品までの,ラファエロの芸術の進展を分かりやすく説明してくださいました。また今回の展覧会でもっとも注目を集める作品「大公の聖母」については,オリジナルと修復との関係,とくに最近では,オリジナル絶対主義への疑問が投げかけられているという傾向についてもお話しくださいました。大変充実した講演で,まさにあっという間の100分間でした。懇親会でも,絵を見る視点がこれまでとは変わった,という感想が多くの参加者から寄せられました。水野先生ありがとうございました。 (橋都)

第392回例会
・日時:2013年2月19日(火)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:白崎 容子 慶應義塾大学文学部
・演題:ピランデッロの短編について -カオス・シチリア物語を中心に-
 イタリア研究会第392回例会が開かれました。演題名は「ピランデッロの短編について:カオス・シチリア物語を中心に」,講師は慶應義塾大学文学部教授の白崎容子先生です。ご存じの方も多いかと思いますが,ピランデッロの短編集「1年間の(あるいは1年のための)物語」を題材として,イタリアの映画監督タヴィアーニ兄弟が1984年に「カオス・シチリア物語」を製作し,この映画は日本でも上映されました.白崎先生は,この短編集から映画で使われた短編6編を含む16編を尾河直哉さんと一緒に翻訳され,昨年「ピランデッロ短編集:カオス・シチリア物語」として出版されたのです。今回は有志会員とともにタヴィアーニ兄弟による映画「カオス・シチリア物語」を鑑賞した後に,通常の例会が行われました。映画で使われている短編は「ミッツァロのカラス」「もうひとりの息子」「月の病」「甕」「レクイエム:主よ,彼らに永久の安らぎを」「登場人物との対話:母との対話」です。これらの6編はあきらかにピランデッロの故郷であるシチリアを舞台にしていると考えられます。白崎先生は,若くしてシチリアを離れながら,心情的にはシチリアへの親近感を忘れなかったピランデッロの作品に認められる,シチリアの土俗性と寓話性,そして諧謔性と訳される「umorismo」が,この短編集にはとくに色濃く認められ,タヴィアーニ兄弟はそれをうまく映像化していることを,多くの場面を例に挙げながら示されました.とくに「甕」「レクイエム」では,権力と民衆との対立がテーマとなっており,そこで発揮される民衆のしたたかさが,作品にユーモアと奥行きとを与えていることを強調されました.いつも面白いお話で,われわれイタリア研究会会員に刺激を与えてくださる白崎先生,ありがとうございました。 (橋都)

第391回例会
・日時:2013年1月18日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:Valeria Lazzaro ローマ大学東洋学部日本語学科卒
・演題:今のイタリアにおける日本文化 ~アニメからジャニーズまで
 イタリア研究会第391回例会が1月18日(金)上野・「東京文化会館」に於いて開催されました。厳寒にも拘わらず多くの会員が出席、質疑応答も活発で盛会でした。今回の講師は、ローマ大学東洋学部日本語学科を一昨年12月に卒業され、現在日本に留学中の弱冠25歳Valeria LAZZAROさん、演題は、「今のイタリアに於ける日本文化~アニメからジャニーズまで」。以前、イタリアでの日本文化と言えば空手、柔道、黒沢明の映画、三島由紀夫の小説などが主流であったが、1970年代半ば日本製アニメがTVに登場して以来、若者の間で日本のアニメ、漫画、ゲームなどの人気が拡大し、今やこれが一大ストリームとなっている。ルッカでのコミコン(年一回開催のアニメ、漫画、ゲーム関連イベント)は1986年にスタートしたが次第に参加者が増え、2012年には18万人に達した(これは世界第三位)。ここでは日本食、日本のアイドルやバンドのグッヅ、制服なども出品されアニメ・漫画のファンのみならず多くの日本文化の愛好家が参集する。今日ではルッカと同様なイベントが、ローマ、ミラノ、ナポリ、パレルモ、他で開催されており、夫々数多くの参加者を集めている。様々な日本グッヅの店も増えつつあるが、その一つ、ローマ・「ネコショップ」(講師の姉上ヴァレンティカートさんが共同店長の1人)と本会場をスカイプで繋ぎ、日本ファンとの接点現場の状況を視聴。同店の人気商品例として漫画(大きなコーナー)、アニメCD、コスプレ、嵐の写真付き弁当箱、折り紙セット、各種シール、制服、ヘアアート、各種ゲーム、日本語教科書、他多数。これに加えて、お店ではアニメコンサート、日本語教室、日本史教室、日本映画会、ゲーム大会、コスプレ大会などのイベントも開催し、日本文化の紹介に努めている。東日本大震災の時は募金活動も行った。来店者の大半は若者だが30代のお客も多いとのこと。中継後、映画、小説やミュージカルにも言及。特に堂本光一のミュージカル「エンドレスショック」は講師が大好きな作品で、日本語の出来ない人にもどうしてもこの作品を見せたいと思い、講師自らイタリア語字幕を作成した(会場で本作品の一部を鑑賞した)。ローマのお店との「現場中継」を交えての、イタリアでの日本文化浸透の現状報告は正に興味津々聴衆の耳目を惹きつけて止まず、あっと言う間の100分でした。Valeriaさん、お忙しい中貴重なご講演どうもありがとうございました。 (猪瀬)

第390回例会
・日時:2012年12月7日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:河村 英和 東京工業大学外国語教育センター
・演題:イタリアのホテル建築にまつわる歴史と文化
 12月7日,イタリア研究会第390回の例会が開かれました。演題は「イタリアのホテル建築にまつわる歴史と文化」です。講師はナポリのフェデリコ2世大学で建築史の博士号を取得された,東京工業大学外国語教育センターの河村英和(えわ)さんです。イタリアでは巡礼,後には英国貴族子弟たちのグランド・ツアーに対応するために,古くからホテルはありましたが,多くは他の住宅と区別のできない外観,規模のものでした。その後に外国旅行の習慣がブルジョワジーにも広がり,貴族の館や修道院がホテルに転用されるようになりました。しかしいわゆるグランド・ホテルがイタリアで建設されるようになったのは,1880年代以降で,他のヨーロッパ諸国よりも遅れていました。しかも,こうしたグランド・ホテルの多くはスイスのホテル業者の資本で建設され,運営も彼らによって行われていました。その後に,イタリアでも庶民の旅行,レジャーとしてのリゾート地の滞在が行われるようになり,ようやくイタリア資本によるイタリア様式のホテルが建設されるようになったのです。河村さんは,多数の写真を示しながら,こうしたイタリアにおけるホテルの変化の様子を,その名前の変遷とともに,詳しくまた分かりやすく示してくださいました。今後,イタリアに旅行する時には,教会やパラッツォだけではなく,ホテル建築にも注目するとさらに新しい興味がわいてくるのではないでしょうか。河村さん,ありがとうございました。(橋都)

第389回例会
・日時:2012年11月29日(木)19:00-21:00
・場所:南青山会館2階大会議室
・講師:石田 憲 千葉大学政経学部教授
・演題:ファシズム体制と『リーダーシップ』
 第389回のイタリア研究会例会が開かれました。講師は千葉大学政経学部教授の石田憲先生,演題は「ファシズム体制と『リーダーシップ』」です。決められない政治が続く日本では,ファシズムのイタリアを指導したムッソリーニを再評価しようという動きもあるようですが,はたしてトップダウンの政治がそれ程までに有効で魅力的なものなのか,石田先生はファシズム体制下のイタリアにおける政策決定,とくに外交政策の決定における問題点を,克明に指摘して下さいました。1830年代のイタリアでは,ムッソリーニの娘婿で小ムッソリーニと呼ばれたチアーノが外務省を牛耳っていましたが,とくに重要な案件については,ムッソリーニ自身が直接,決定を行っていました.その結果として,彼の思いつきに近いような対外政策が行われるようになり,外務省内にそれに対抗する勢力が存在しなかったわけではありませんが,次第に力を失ってしまいました。これは同じ時期の日本でも同様であって,外務省内での情報の収集と討議による対外政策の決定が行われなくなってしまい,正論を唱える外交官たちが力を失ってしまって,軍部の暴走をまねくことになりました。こうした歴史を考えると,「リーダーシップ」に期待するのではなく,正確な情報と外務省内部での討議による政策決定が,さまざまな困難な外交問題を抱える現在の日本においては何よりも重要であることを,石田先生は強調されました。質問では,同じような歴史をたどった日本とイタリアとの違いがどこにあるのか,現在の日本は,周辺諸国に対してどのように行動すべきか,など活発な意見の表明と議論が行われました。石田先生,貴重なご講演をありがとうございました。(橋都)

第388回例会
・日時:2012年10月25日(木)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:金沢 百枝 東海大学准教授
・演題:イタリア中世美術のたのしさ -シチリアと南イタリアの古寺をめぐる-
 イタリア研究会の第388回例会が開かれました。講師は新潮社・とんぼの本で,美しいイタリア古寺巡礼シリーズを出版されている東海大学文学部准教授の金沢百枝さんです。金沢さんは東京大学の理学部に入学して,植物学の研究をされて,その後に美術史に転向し,何と理学博士と文学博士の2つの博士号をお持ちという俊英です。ローマ帝国が滅亡した後のヨーロッパが,ローマ帝国から何を受け継いだのかという大きな問題意識から,ロマネスク美術を研究されています。昨日はパレルモの王宮礼拝堂のモザイクと,オトラントの教会の床モザイクを中心に,ロマネスク美術の起源がどこにあり,その魅力がどこにあるのかを熱く語って下さいました。とくに日本では,これまで中世は暗黒時代と考えられてきましたが,ロマネスク美術には,受け継いだ技術や様式を自在に自分のものとする自由闊達さと,遊び心があり,楽しいものであることが,参加した皆さまにはよく理解できたのではないかと思います。イタリアに行って見るべきものがまた増えたと思われた方も多かったのではないでしょうか。金沢さん,ありがとうございました。11月22日には同じとんぼの本から「イタリア古寺巡礼・シチリア→ナポリ」が出版されるということですので,楽しみです。 (橋都)

第387回例会
・日時:2012年9月20日(木)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:山田 高誌 大阪大学大学院文学研究科
・演題:ナポリ銀行歴史文書館史料から浮かび上がる18世紀の音楽家たちの活躍と生活~モーツアルトが憧れたオペラの都の実情
 第387回イタリア研究会例会が開かれました。講師は音楽史の専門家である大阪大学大学院文学研究科芸術学講座助教の山田高誌さん,演題名は「ナポリ銀行歴史文書館資料から浮かび上がる18世紀の音楽家たちの活躍と生活ーモーツァルトが憧れたオペラの都の実情」でした。山田さんはたびたびイタリアに滞在して,ナポリ銀行歴史文書館の資料を分析して,そこから18世紀,19世紀のナポリにおけるオペラの実情を明らかにする研究を続けています.全部で2億5000万冊あるという伝票の山の中から,顧客名簿と業務日誌を頼りに目的の伝票を見つけ出し,それを解読してさまざまな情報を得るという研究は膨大な時間と労力を必要とする仕事ですが,この地道な仕事から多くのことが分かってきています.たとえば,オペラの作曲家と歌手は高額の年俸を得ていたのに対して,器楽奏者は副業をしなければ生きていけない程度の年俸しかなかったこと,あるいはアリアや序曲の作曲家とレチタティーヴォの作曲家とは別人であることがしばしばあり,レチタティーヴォの作曲家は多くの場合,チェンバロ奏者であったことなどです.そしてオペラが次第にシリアスな内容になるにともない,本来の作曲家がレチタティーヴォも作曲するようになってきたと言うことです。山田さんは史料が残っていたのでこうした研究が可能だが,200年後あるいは500年後に,現在の音楽について同じような研究が可能であろうか,との疑問を呈されました。たしかに資料の電子化とそのデュラビリティは大きな問題であり,真剣に考える必要があると思います。山田さん,たいへんレベルが高く,しかも面白いお話をありがとうございました。  (橋都)

第386回例会
・日時:2012年8月28日(火)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:藤澤 房俊 東京経済大学教授
・演題:ムッソリーニの子どもたち -ファシズム体制下の少国民形成について-
 イタリア研究会第386回例会が開かれました。講師は東京経済大学教授の藤澤房俊先生、演題は「ムッソリーニの子どもたち―ファシズム体制下の少国民形成について」でした。イタリアではムッソリーニによるファシズム体制のもと、子どもたちをファシズムに導くために、バリッラと呼ばれる子どもたちの養成組織が整備されました。これは学校とは別の課外活動でしたが、学校においても1930年から国定教科書が導入され、その中ではムッソリーニが賛美され、バリッラとその制服がかっこ良いものとして持ち上げられていました。また男らしさ、女らしさ、多産が奨励され、少国民をファシズム体制に組み込むのに大きな役割を果たしました。藤澤先生は、当時実際に使われていた国定教科書の中で、ムッソリーニを賛美し、子どもたちに愛国心を喚起するためにどのような言説が用いられたかを示すとともに、初等教育においても次第に人種主義的な色彩が強くなり、ついには明らかな反ユダヤ主義が示されるようになった経過を明らかにしてくれました。われわれの全く知らない情報が多く、参加者は熱心に聞き入るとともに、講演後には、日本の軍国主義とイタリアのファシズムとの基本的な違いがどこにあったのか、あるいはバリッラとヒットラー・ユーゲントとの影響関係など、鋭い質問が続出しました。これは会員の方々のこの問題についての関心の深さを示していると考えられました。藤澤先生、興味深いお話をありがとうございました。(橋都)

第385回例会
・日時:2012年7月24日火曜日19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:村松 真理子 東京大学大学院総合文化研究科准教授
・演題:タブッキののこしたもの
今回のテーマは,今年の3月に亡くなった現代イタリアの最大の作家であるアントニオ・タブッキに関するもので,題して「タブッキの残したもの」,講師は東京大学大学院総合文化研究科准教授の村松真理子先生です。おもに先生はご自分が翻訳された彼の処女作「イタリア広場」を手がかりに,タブッキの文学の特徴,文体を鮮やかに分析されました.彼の作品は同時代のイタリア人作家の中では飛び抜けてヨーロッパ的・国際的ですが,その中には常に二面性が隠されていること,その二面性は彼が生きた時代と育った土地,トスカーナ地方のピサと結びついていることを示されました.彼の作品の二面性はテーマとしては「個人と社会」「民衆と国家」「ファシズムとレジスタンス」であり,スタイルとしては「マニエリスムとアンガージュマン」として表されます。先生はタブッキが何度かノーベル文学賞候補に挙げられながら,それを受賞する前に亡くなってしまった事を嘆いておられましたが,難しそうに思えても,読んでみると直接,読者の心に訴えてくるものが多い彼の文学にぜひ親しんで欲しいと,講演を終えられました。さいわい日本には須賀敦子さんの訳(「インド夜想曲」「供述によるとペレイラは」「逆さまゲーム」)を初めとして,村松先生ご自身の訳(「イタリア広場」)など,多数のタブッキの作品が翻訳されています。これを機会にぜひ皆さまもタブッキを読んで頂きたいと思います。(橋都)

第384回例会
・日時:2012年6月25日月曜日19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:藤原 章生 毎日新聞夕刊編集部
・演題:ギリシャ、イタリア、フクシマ
 第384のイタリア研究会例会が開かれました。講師は毎日新聞前ローマ支局長の藤原章生さん、演題名は「ギリシャ,イタリア,フクシマ」でした。藤原さんは今年の1月に亡くなったギリシャの映画監督テオ・アンゲロプロスに昨年インタビューした時の「われわれは扉の前に立ちすくんでいる。そしてその扉を壊すのはイタリア人だろう」という内容の彼の予言めいた言葉を手がかりに、ギリシャ危機、イタリアの問題点、これからの世界が進む方向について話をされました。そしてこのアンゲロプロスの言葉に多くの人々が反応したのはなぜなのか、どのように反応したのか、とくにイタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの「その扉が優しく開かれることはないだろう」との言葉を紹介してくれました。そしておそらく現在の経済システムがそのまま続くことは無く、その問題点に鋭く反応している地中海諸国、とくにイタリアの人々が先行して、世界の変革が起こる可能性があるが、一時的なカオスがもたらされる可能性があるとの彼自身の考えを語られました。藤原さん,たいへん刺激的なお話をありがとうございました。(橋都)

第383回例会
・日時:2012年5月29日(火)19:00-20:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:田辺 健 イタリア研究会名誉会員
・演題:わがイタリア人生60年
 第383回のイタリア研究会例会が行われました。今回の講師はイタリア研究会の創設者である元ミラノ総領事の田辺健さん、演題名は「わがイタリア人生60年」です。田辺さんは戦後、日本が外交権を回復した直後からローマで大使館の立ち上げ、次いでミラノ総領事館の立ち上げに携われた、まさに戦後の日伊関係の生き証人とも言える方です。田辺さんはヨーロッパへの憧れから、東京外語のイタリア語科を目指した青春時代から、戦後のローマでの大使館、ミラノ総領事館の開設の経緯、その間のベニャミーノ・ジーリ、ヘルベルト・フォン・カラヤンらの著名人、皇室の方々との交流を、ユーモアを交えて語られましたが、聴衆にとってはびっくりし、また感嘆する話ばかりで、予定された2時間があっという間に過ぎてしまいました。皆さんから「1回では足りない,もっと聴きたい」「次はバチカン関係のお話を」など沢山の要望が寄せられました。田辺さんのご負担も考慮しなければなりませんが、何とか続編を実現させたいと思います。その後の懇親会にも大勢の会員が集まってくださり、いつまでも話が尽きませんでした。これは田辺さんのキャリアがもたらしたものではなく、誰にも同じように接してくださる田辺さんのお人柄によるものであると思います。田辺さん,本当にありがとうございました。(橋都)

第382回例会
・日時:2012年4月6日金曜日19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:粉川 妙 イタリア食文化研究家
・演題:イタリアとブタ ~ブタを取り巻く文化と食習慣(ガストロノミア)~
 4月6日(金)にイタリア研究会第382回例会が行われました。演題名は「イタリアとブタ:ブタを取り巻く文化と食習慣(ガストロノミア)」でした.講師はウンブリアのスポレート在住のイタリアの食・スローフード研究家でライターの粉川妙さんです。われわれ日本人は西洋料理の代表としてはビフテキを思い浮かべてしまいますが,ヨーロッパでは本来,牛は働かせる動物,乳を搾る動物で,食べる動物の代表は伝統的にブタだったのです。粉川さんはこのヨーロッパのブタ食文化が,エジプト,ギリシャ,ローマから続く伝統であり,ブタは聖性とけがれと両方を持つものと考えられてきたこと,ローマ人はもともと菜食が中心であったのだが,ユダヤ人やケルト人にブタ飼いをさせて,ブタを蛋白源とするようになったことを,多くの図版を使って話をされました。そして中世以降は森でドングリを食べさせてブタを太らせ,冬に殺して加工食品とするという現代に繋がる習慣が確立したこと,ブタ飼いの地位が農民よりも高かったことを示されました。しかしその後に,貴族階級ではジビエがより高級であるという風潮が広まったために,ブタは庶民の食べ物であるという考えが固定化されたのだそうです。さらに「ブタは鳴き声以外はすべて食べられる」ということわざ通りに,ブタのあらゆる部位を使った加工食品,プロシュット,サラミ,ラルドなどの写真,製造現場の様子を示されました。90分の講義の終わりには,空腹感を覚えた方も多かったのではないかと思います。聴衆からは「非常に面白かった」という感想が多く,その後の懇親会でもイタリアのブタ食文化,その他の食文化の話に花が咲きました。粉川さん,ありがとうございました。 (橋都)

第381回例会
・日時:2012年3月10日(土)14:50-16:40
・場所:南青山会館2階大会議室
・講師:中益 陽子 都留文科大学
・演題:イタリアの年金制度
 第381回イタリア研究会例会が開かれました。演題名は「イタリアの公的年金制度:イタリアは年金天国か」で,講師は都留文科大学文学部社会学科講師の中益陽子さんで。どうも日本ではイタリアは年金天国のように考えられています.中益さんのお話では,たしかにある時期,特定の職種においては,受給者にとって有利な年金制度があったことは事実のようです.しかし日本と同じく国の財政状況が厳しいイタリアでは,次々と年金改革が行われており,その基本は受給前の給料を反映させる報酬方式から,拠出した保険料総額を反映させる拠出方式への転換です.これにより,多くの受給者で年金の受給額が減っています.結局はよく言われるように“free lunch というものはない!”ということのようです。さらにイタリアの年金制度は基本的に,国民全体を対象とした制度ではなく,就労者だけを対象とした制度ですので,日本との単純な比較はむつかしいのです.また日本の生活保護に該当するような制度が無く,所得の再分配が効きにくいシステムとなっています.これは,困った時にはお上が何とかしてくれる,と考えがちな日本人に対して,イタリアには国による干渉を嫌う国民性があるということを,中益さんは指摘されました。複雑で分かりにくい内容を,明快にお話しされた中益さんありがとうございました.参加者の年金に対する関心は非常に高く,講演後にはさまざまな質問が続出しました。 (橋都)

第380回例会
・日時:2012年2月28日(火)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:山中 律子 イタリア料理ジャーナリスト
・演題:私の(子連れ)イタリア料理修行
 イタリア研究会第380回例会が開かれました。講師は会員でもあるイタリア料理ジャーナリストの山中律子さん,演題名は「私の(子連れ)イタリア料理修行」でした。広告代理店のコピーライターを続けながら毎年のようにイタリアに料理修行に行っておられる山中さん,現在は二人の男の子がいるのですが,なんとそのお二人を連れての料理修行を行っています.しかし山中さんのお話を聞いているうちに,それは単に彼女のバイタリティーや根性によるのではなく,イタリアという国,イタリア人という人々がいるからこそ,可能であるということがよく分かってきました。つねに励まし,子どもを大事にしてくれるイタリアの人々の存在が,山中さんの行動を支えてきたのです。お料理や人々の美しく楽しい写真の数々を見て,お腹が空いた方が多かったようですが,それよりも,またイタリアに行きたい,またイタリアの人たちに会いたいと思った人の方がずっと多かったのではないでしょうか。懇親会でも,いつまでもイタリアの話が尽きませんでした.山中さん,どうもありがとうございました。 (橋都)

第379回例会報告
・日時:2012年1月27日木曜日19:00-21:00
・場所:南青山会館2階大会議室
・講師:村松 真理子 東京大学教養学部准教授
・演題:ダンヌンツィオと日本:友則,雷鳥,三島?
 イタリア研究会第379回例会が開催されました。演題は「ダンヌンツィオと日本:友則,雷鳥,三島?」で,講師は東京大学教養学部准教授の村松真理子先生です。ダンヌンツィオは19世紀から20世紀にかけて活躍したイタリアの詩人・小説家ですが,ムッソリーニとは距離を保っていたにもかかわらず,その行動と生涯からファシズムとの関連が連想され,第2次世界大戦後には意識的に言及されなくなってしまった作家です.しかし彼は明治,大正時代の日本では(フランスにおいても)大変な人気があり,上田敏の訳詩集「海潮音」の最初と最後を飾っていることは,意外と知られていません。また彼は日本の短歌にも興味を持っており,イタリア語で「5, 7, 5, 7, 7」の音節を持つ短歌(まがい)を作るという離れ業も見せています.松村先生は,ある意味で山っ気たっぷりな彼の生涯と,彼の小説を模倣して心中未遂事件まで起こした森田草平,平塚雷鳥のカップル,そして彼に会見することを熱望した多くの日本人達との関わりを,貴重な資料を交えて活き活きと描いてくれました.そして何といっても,誰よりも彼の影響を強く受けたと考えられる三島由紀夫について,ダンヌンツィオと比較しながら,その作品や映像,行動を分析されました。そして三島を単に特異な作家と片付けるのではなく,日本において,ダンヌンツィオ的なものが受け入れられる素地が脈々と続いていると考える
べきではないかと語られました。非常に興味ある刺激的なお話で,講演後には多くの質問やダンヌンツィオと日本との関係に関する新しい情報が寄せられ,時間が足りなかったのが残念なほどでした.村松先生,どうもありがとうございました。(橋都)

第378回例会報告
・日時:2011年12月21日(水)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:佐藤 一子
・演題:イタリア学習社会の歴史像
      アソチアツィオニズモを基盤とする学習文化活動の展開
 イタリア研究会第378回のテーマは「イタリア学習社会の歴史像:アソチアツィオニズモを基盤とする学習文化活動の展開」,講師は法政大学キャリアデザイン学部教授,東京大学名誉教授の佐藤一子先生でした.いささか舌を噛みそうな題名でしたが,じつに明快で面白いお話でした。佐藤先生は,ご自分がなぜ成人教育の主流と考えられている英米ではなく,イタリアを研究されるようになったか,という点からお話をされ,アソチアツィオニズモがイタリアの地域社会と密接に結びついており,リソルジメントよりも古い歴史を持つことを示されました。そしてそれがヨーロッパの中では低学歴社会であったイタリアにおいての識字運動,社会的弱者のサポートや社会への受け入れといった,重要な役割を果たしてきたこと,しかし経済のグローバル化や移民の流入によって,地域社会が崩壊するとともに,その将来が危ぶまれていることを,広い知識と資料とによって語って下さいました・比較的地味なテーマかと思いましたが,参加者の関心は高く,質問が続出して,非常に熱い例会となりました.佐藤先生ありがとうございました。   (橋都)

第377回例会報告
・日時:2011年11月17日(月)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:古澤 智裕
・演題:欧州債務危機
 東京経済大学の藤沢房俊教授のご講演を予定していましたが,先生が入院されたため,急遽講師と演題を変更・選定することになりました。急なお願いにもかかわらず,ご講演を準備し,見事なお話をして下さった野村アセットマネジメント・経済調査部,シニア・エコノミストの古澤智裕さんにまずは御礼を申し上げたいと思います。演題は「欧州債務危機」です。ギリシャの債務危機に端を発したヨーロッパの債務危機は,EU中央銀行とドイツ,フランスを中心とした大規模な介入にもかかわらず,まだ収束の気配が無く,それどころはイタリアにも飛び火をして,ついにベルルスコーニ首相の辞任に至ったことは,どなたもご存じと思います。古澤さんは,GDPに関しては,ユーロ圏全体のわずか2.6%を占めるに過ぎないギリシャの債務危機が,なぜEUの存続を危ぶませるほどのインパクトを持つに至ったかを,多数のグラフや図表を駆使して,分かりやすく説明して下さいました。この限られたスペースで説明することは困難なのですが,各国の財政赤字だけではなく,金融の健全化のために規定されている,ユーロ圏の銀行の自己資本比率の縛りが,ジレンマを生んで,この債務危機への対策を難しくしているということです。しかしギリシャがEUを離脱することも,EUが崩壊することもなく,ヨーロッパは今後もさらに一体化を強めて行くだろうというのが,古澤さんの読みです.われわれもイタリア新内閣の動向に注目して行きたいと思います。 (橋都)

第376回例会
・日時:2011年10月25日(火)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:栗林 芳彦(くりばやし よしひこ)
 名古屋文理大学情報文化学部教授、PR学科学科長
・演題:ヴェネツィアをマーケティングする
 イタリア研究会第376回の例会が開かれました。演題名は「ヴェネツィアをマーケティングする」,講師は名古屋文理大学情報文化学部教授・PR学科学科長の栗林芳彦さんです。栗林さんはもともと広告業界におられた方で,マーケティングの専門家ですが,ヴェネツィアには50回以上行かれており,ヴェネツィア人よりもヴェネツィアに詳しい日本人です。栗林さんは,多くの日本人がそこを訪れながら,本当の意味でその魅力を味わうことなく,慌ただしく立ち去って行く現状を踏まえて,ヴェネツィアの魅力,弱点などのSWOT分析から,そのマーケティング戦略を語ってくれました。ヴェネツィアの魅力のすべては,その特徴的な街の構造と歴史とに根ざしています。もともと堅固な土地がない場所に建設された水上都市,1100年間一度も外国に侵略されず,内乱も経験していない堅固な政治制度,これらの要因がヴェネツィアの街,美術,音楽を形作りました。ヴェネツィアを楽しむためには,共通の目的を持ったグループがエキスパートとともに,ある程度の期間滞在して,その目的を集中して探求する事が,必要であり,それはいわばマニアの先導によって,新しい観光のスタイルを創造する事である,という栗林さんの言葉に共感した聴衆が多かったのではないでしょうか。さっそくヴェネツィアに出かけたくなった方もたくさんおられた事と思います.栗林さん,ありがとうございました。 (橋都)

第375回例会
・日時:2011年9月19日17:00~18:30
・場所:三笠会館5階(銀座5-5-17 TEL: 03-3571-8181)
・演題:オペラの解釈と準備
・講師:Dimitra THEODOSSIOU(ディミトラ・テオドッシュウ)
・通訳:高田 和文 静岡文化芸術大学教授 前ローマ日本文化会館館長
 今回の講師は、なんと現在来日中のボローニャ歌劇場のプリマドンナ、ソプラノのディミトラ・テオドッシュウさんです。演題は「オペラの解釈と準備」でした.講演に先立ち、この会の創始者のお一人である田辺健さんが名誉会員になられたとの報告があり,会員一同から盛大な拍手が送られました。さて講演は静岡文化芸術大学教授である高田和文先生の通訳で行われましたが、お二人の打ち合わせにより、最初のテオドッシュウさんのお話は短くして、主に聴衆からの質問に対する回答の形で行われました。ギリシャに生まれたテオドッシュウさんは,音楽好きの父親に初めてオペラ劇場に連れて行ってもらった6歳からオペラ歌手になりたいとの強い決意を持ち続けました.家庭の事情で音楽学校には行けませんでしたが、自分なりの訓練は続け、母親の母国であるドイツを訪問中に偶然、音楽教師と出会い、それから本格的な勉強を開始、デビューしたのは29歳の時でした。テオドッシュウさんはオペラ歌手になるには、才能も必要だが、たゆまぬ努力と訓練が何よりも重要であることを強調されました。現在でも教師に付いての定期的なチェックとトレーニングを欠かさないとのことです。また自宅で150%の力が出せていなければ、実際の舞台ではそれが80%くらいになってしまうため、聴衆を魅了する演技にはならない、という言葉には世界の一流歌劇場での経験場豊富な彼女ならではの説得力がありました。
 引き続いて行われた懇親会では、誰もが彼女と話をしたり、一緒に写真を撮ったりしたがるため、テオドッシュウさんはほとんど食べ物や飲み物を口にする時間がありませんでしたが、90分を超えるパーティーの間じゅう、終始にこやかに対応してくださり、感謝の念に堪えません。テオドッシュウさん、本当にありがとうございました。(橋都)

第374回例会
・日時:2011年7月28日(月)19:00-21:00
・場所:南青山会館2階大会議室
・講師:藤谷 道夫(ふじたに みちお)
・演題:ダンテにおける《4項類推》と《空間転写》
 7月28日(木)にイタリア研究会第374回例会が開かれました。演題名は「ダンテにおける《4項類推》と《空間転写》」,講師は帝京大学准教授で,現在日本で最高のダンテ研究家として知られる藤谷道夫さんです。じつは演題名を見ても,司会者の僕にもどういった内容になるのか,皆目見当がつかなかったのですが,実際にはじつに興味深くまた分かりやすいお話で,まさに目から鱗でした。ダンテは最初のルネッサンス人とも言われていますが,その心情はあきらかに中世人であり,近代の人間とは思考の回路が異なっていること,彼は神が作り給うた世界の秩序を,自分の作品の中に模倣しようとしていたことを,藤谷先生は多くの神曲からの文例を挙げて説明されました。しかもこうした神曲の構造が明らかになってきたのは,何と彼の生誕700年が過ぎた1960年以降で,本格的に研究されるようになったのが1980年代になってからだということです。しかもダンテの用いた技法のほとんどは,翻訳によって消えてしまうために,なかなか日本人には理解しにくいことを,藤谷先生は示してくれました。ダンテの偉大さ,神曲の巨大さをあらためて知ることができた講演であったと思います。いつか藤谷先生による「神曲」の翻訳を読んでみたいものです。藤谷先生,ありがとうございました。(橋都)

373回例会
・日時:2011年6月7日(月)19:00-21:00
・講師:佐々木 雅幸 大阪市立大学創造都市研究科教授
・演題:創造都市ボローニャへの招待
・場所:東京文化会館4階大会議室
 6月7日(火)第373回のイタリア研究会例会が開かれました。演題名は「創造都市ボローニャへの招待」,講師は大阪市立大学創造都市研究科教授で同大学の都市研究プラザ所長も務める佐々木雅幸先生です。ボローニャはみなさまご存じのようにヨーロッパ最古といわれるボローニャ大学がある街として有名ですが,同時に中世から続くギルドの伝統が生きている職人の街でもあります.この街で協同組合が中心となって,町並みの保存,芸術の振興,ホームレスの自立支援などさまざまな事業がおこなわれ,街の活性化に寄与しています。なぜボローニャでこうした取り組みが成功しているのか.それは演題名の副題であった「街と大学と文化政策」とに表れているように,住民と大学人とコムーネとがお互いに協力をして,徹底的に話し合うことによって,本当の意味での住民主導の事業がおこなわれている事によっています.佐々木先生は実際の多くの事例を挙げながら,分かりやすくまた活き活きとボローニャにおけるさまざまな事業を解説して下さいました。地方都市の衰退,東京中心の文化の一元化が大きな問題となっている日本においても大いに参考になる講演でした。講演後には質問が続出しましたが,ご多忙な先生がその日のうちに大阪にお帰りになるということで,懇親会でのさらなる議論ができなかったのがいささか残念でした。佐々木先生,お忙しいところ本当にありがとうございました。(橋都)

第372回例会
・日時:2011年5月30日(月)19:00-21:00
・講師:藤井 慈子(ふじい やすこ)ローマ在住ガラス研究家
・演題:古代ローマ時代のガラス
・場所:東京文化会館4階大会議室
 昨日,第372回のイタリア研究会例会が行われました。講師はローマ在住のガラス研究家藤井慈子(やすこ)さん,演題名は「古代ローマ時代のガラス」です。もともと古代ローマの文献的な研究をおこなっていた藤井さんは,たまたまバチカン美術館で目にした古代ローマの金箔ガラスに魅せられて,その研究を始めました。そのおしとやかな外観とはそぐわないオタク的エピソードも交えながら,ローマ時代のガラスの歴史,技術,ローマ人の生活に与えた影響など,広範な知識を情熱を込めて語ってくれました。エジプトあるいはパレスチナで発明されたと考えられるガラスが,ローマ時代に吹きガラスという画期的な方法を得たことにより,自由な造形が可能となり,大量生産による値段の低下も相まって,窓ガラスも含めて庶民が用いることのできる素材となりました。そしてそれはイタリア半島から帝国各地に拡がり,ゲルマニアのケルンでひとつの技術的な頂点を形成するまでになったのです.それがさらに朝鮮や日本にまで,その技術が伝わったと考えられ,われわれに人間の営みの壮大さを思い起こさせてくれます。また藤井さんの関心の中心である金箔ガラスが,真っ暗なローマのカタコンベにおいて,肉親の墓を見つけるための目印としても用いられたのではないか,というお話は,世の東西を問わない先祖への思いの深さを伝えるものでした.藤井さん,興味深いお話をありがとうございました。(橋都)

第371回例会報告
・日時:2011年4月22日(金)19:00-21:00
・講師:松浦一樹 読売新聞社元ローマ特派員
・演題:ベルルスコーニ現象:イタリア戦後政治の終結と民主主義の危機
 イタリア研究会第371回例会が開かれました。講演に先立ち,今回の東日本大震災の犠牲者に黙祷が捧げられた後,会が始まりました。講師は昨年まで読売新聞ローマ支局にお勤めで,現在は英字新聞部の主任を務める松浦一樹さんです.演題名は「ベルルスコーニ現象:イタリア戦後政治の終結と民主主義の危機」です。この演題名はいわく付きで,講演をお願いした時に,一度はこの題名に決まったのですが,例会期日が4月になったため,それまでベルルスコーニ政権は持たないだろうと,別の題名に変更しました。ところがあに図らんや,彼がしぶとく延命しているために,元の題名にもどったという次第です。さて松浦さんのお話は,記者会見場でベルルスコーニが発するオーラの話など,現地で記者をされていた松浦さんならではのビビッドな印象も含めて,なぜ彼がスキャンダルにまみれながら,ヨーロッパでもトップの人気を保っているのかを,彼の生い立ち,手法,戦略などから分かりやすく解説してくれるものでした。結局は彼の最大の特徴は,史上初めて国中のメディアを手中に収めた権力者であることで,これをネオ・ファシズムと見るかどうかは,今後の経過を見なければならないが,それに関して重要なのは,北部同盟とフィーニ党首との関係ではないかということ,われわれがイタリアを見る時には,いくら批判はあっても,この国がベルルスコーニを支持している国であるという観点も忘れてはならないということが強調されて,講演は終わりました。講演後には質問が続出して,時間が足りなくなるほどで,例会後の懇親会でも,松浦さんを中心に,遅くまで議論が花咲いていました。松浦さん,本当にありがとうございました。(橋都)

第370回例会報告
・日時:2011年3月9日(水)19:00-21:00
・講師:三浦 伸夫 神戸大学教授
・演題:女性にとって数学はどのような意味があるのか? -18世紀イタリアの女性と数学
・場所:東京文化会館4階大会議室
 講師は神戸大学国際文化学研究科教授の三浦伸夫先生です。中世数学史がご専門の三浦先生は、18世紀のミラノで生まれ活躍した女性数学者アニェージの生涯をたどりながら,当時のイタリアの女性を取り巻く文化的雰囲気をフランスや英国との比較をしながら描き出し,女性が学問を行うことが決して例外的なものではなかったことを示されました。ボローニャ大学の数学教授になったアニェージだけではなく、同じくボローニャ大学の物理学教授になったラウラ・バッシ、詩人から数学研究に転向したフィーニなど、他にも当時、女性科学者が活躍しており、これには初期カトリック啓蒙主義ともいうべき運動がその支えとなっていたことを、先生は示されました。この時代には、科学が宗教と対立するのではなく、むしろ信仰の一形態としての数学研究という面があり、後半生は数学の研究を放棄して貧者の救済に身を捧げたアニェージの生涯からもその事が分かります。われわれがまったく知らなかった科学史、イタリア史の一側面を鮮やかに示して下さった三浦先生,ありがとうございました。 (橋都)

第369回例会報告
・日時:2011年2月15日(火)19:00-21:00
・講師:松本 敦則 法政大学准教授
・演題:イタリアにおける中国系企業の台頭
・場所:東京文化会館4階大会議室
 講師は法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究家准教授の松本敦則さんです。松本さんはミラノ領事館の経済担当・専門調査員として,また現職になってからもイタリアの中小企業,地場産業の研究を精力的に続けておられます。その中でも繊維の街として有名なトスカーナ州プラートの街の最近の変容ぶりを、さまざまなデータと写真とで示してくれました。その変容ぶりとは一言でいえば,中国系企業による席捲です。プラートにはもともと中小の繊維関係の企業が多く,約8,000社が登録されているそうですが,そのうちの2,000社近くがすでに中国系で,在住中国人の数も実数の把握が難しいものの,30,000人を超えているのではないかといわれています。その結果,プラートの街の経済は中国人抜きには成り立たない状況になっており,彼らは一部では歓迎され、一部ではひんしゅくを買っているという状況のようです。もっとも大きな問題点は,もともとプラートにはテキスタイル関係の産業が多かったのが,よりもうけの多いアパレル関係の産業へと主力が変わってしまい,質の高い糸や布地をパリやミラノに提供することができなくなってしまったことだということだそうです。こうした問題点は,われわれ日本人にとっても人ごとではなく,巨大な中国パワーに対抗するあるいは協力関係を構築するにはどうすればよいのか,大いに考えさせられる講演でした。講演後の質疑応答でも,そうした関心から多数の質問が寄せられていました。(橋都)

第368回例会報告
・日時:2011年1月14日19:00-21:00
・講師:フランチェスコ・フォルミコーニ イタリア商工会議所会頭
・演題:世界を魅了するイタリアファッション
・場所:東京文化会館4階大会議室
 今回の講師は、在日イタリア商工会議所会頭であり、アルマーニ・ジャパンの副社長でもあるフランチェスコ・フォルミコーニさんでした。タイトルは「世界を魅了するイタリアファッション」というとても興味をそそられるもので、多くの会員の参加が予想されましたが、事実、多数の女性会員が参加し、講演の始まる頃には席はほぼ満席となりました。講演の内容は最初にフォルミコーニ氏が会頭を務める在日イタリア商工会議所の説明から始まりました。在日イタリア商工会議所はイタリア大使館や貿易振興会などとも協力してイタリアと日本のビジネスの拡大化に大きな役割を果たしています。またセミナーやアペリティーボなどのユニークな活動を通じて会員数を増やすように努力しているとのことです。次に本題のイタリアのファッション業界の話に移り、まずイタリアの輸出額の推移の説明がありましたが、ここ数年不景気の影響もあり、イタリアからの輸出全体の落ち込みと共にファッション関連の輸出も落ち込んで来ており、厳しい状況が続いているとのことです。ファッション関連の企業の規模は小さく零細・中小企業並みで、その企業数も従業員数も減ってきているとのことです。ファッションの歴史はローマ時代からあり、身分によって身に付けているものも違っていたそうです。時代が下り東ローマ帝国、そして中世の時代、ルネッサンス期にイタリア・デザインが誕生しました。イタリアファッションの発祥はその大半が北部イタリアに集中しています。19世紀の産業の発展と共に織物産業として、羊毛、コットン、絹を使った洋服が製造され、アクセサリーとしてアイ・ウエアー、ジュエリー、革製品などが生み出されました.有名なところでは、コモがネクタイ、プラートがアパレル、ボローニャ、フィレンツエが皮製品、アクセサリー、マルケ州が靴といったところです。戦争の後、イタリアファッションブームのスタートとなり、グッチ、フェンディ、ブルガリ、サフィロ、エミリオ・プッチと言った有名ブランドが次々に誕生しました。今ではイタリアの有名ファッションブランドは数え上げればきりがないほど数多くあります。知っているところでも、グッチ、ジョルジョ・アルマーニ、ヴァレンティーノ、フェンディ、トッズ、マックス・マラ等々,最近では、生産コスト高という点を補うために生産の海外シフトも加速されているとのことです。また最近はM&Aにより、イタリアの有名ブランドがフランスのLVHMグループや、P.P.R.グループの参加に入るという現象も起きています。最近は日本の消費者も変わって来ていて、フォルミコーニさんの分析では、①ヴァリューを探し求める。②家で多くの時間を過ごす。③異なった方法で商品を買う。④健康と環境に配慮するといった行動傾向から、「時間を節約するためにお金を使う」から、「お金を蓄えるために時間を費やす」といった新しいパターンに変化しているとのことです。そのためにユニクロやザラ、ギャップと言ったファースト・ファッションと呼ばれるブランドが今の日本の消費者に適していると見ています。講演後の質疑応答では、「なぜ南部からイタリアファッションが生まれないのか。」「なぜファッションの有名な国がイタリア、フランス、スペインといった南欧に集中するのか」といったユニークな質問が寄せられ、大いに盛り上がりました。フォルミコーニさん、どうもありがとうございました。(市井)
第367回例会報告
・日時:2010年12月13日(月)19:00-21:00
・講師:芦田 淳 国立国会図書館課長補佐
・演題:イタリアの議会と選挙
・場所:南青山会館2階大会議室
 講師は元イタリア研究会運営委員で、昨年フィレンツェ大学への2年間の留学から戻られた国立国会図書館・課長補佐の芦田淳さんです。演題は「イタリアの議会と選挙」で、渋い演題のため、聴衆の集まりが心配されましたが、さすがイタリア研究会、雨の中おおぜいの聴衆が集まりました。芦田さんは選挙制度よりもイタリアの議会制に重点を置き、その成立の経緯、その機能、そしてEU議会や州議会との関係について語ってくれました。日本に非常に良く似た二院制をとるイタリアの議会がその成立と機能において、日本の議会とはどのように異なっているのか、EUへの加盟と地方自治体の権限の拡大が議会にどのような影響を与えているのか、そしてイタリアの議会制度はどこに向かおうとしているのか、などきわめて興味深いテーマについて、該博な知識を元に話をして下さり、固いテーマにもかかわらず聴衆を引きつけました。講演後の質疑応答でも、非常に多くの質問が続出し、イタリア研究会会員のイタリア政治への関心の高さを改めて感じさせました。芦田さんありがとうございました。(橋都)

第366回例会報告
・日時:2010年11月17日(水)19:00-21:00
・講師:ダリオ・ポニッスィ(騎士)
・演題:ぺルゴレージとの空想的遭遇
・場所:東京文化会館4階大会議室
 今年はイタリアの作曲家,ペルゴレージの生誕300年です。日本ではさすがにメンデルスゾーン(昨年生誕200年),ショパン(今年生誕200年)ほどの盛り上がりがないのですが,イタリア研究会として取り上げないわけにはいきません。というわけで,昨日のイタリア研究会第366回例会の演題は「ペルゴレージとの空想的遭遇」でした。講師は,オペラ演出家,俳優,歌手,エッセイストとして多彩な活躍をしているダリオ・ポニッスィ氏(カヴァリエーレ)です。ダリオさんは,この26歳で亡くなった知られざる作曲家の生涯と作品について,熱く語ってくれましたが,とくに彼がモーツァルトに与えた影響について,2人の作品を聞き比べながら,その影響の大きさを指摘されました。たしかにモーツァルトの「レクイエム」とペルゴレージの「ミゼレーレ」,モーツァルトの「魔笛・序曲」とペルゴレージの「シンフォニエッタ」の類似性は驚くべきもので,モーツァルトがペルゴレージを敬愛していたことを聴衆に納得させるだけのものがありました。さらに,ダリオさんは,かの有名な「ニーナの死」をギターの弾き語りで熱唱して喝采を浴びました。また最後には,世界でも初公開という,ペルゴレージの在世中に描かれた可能性のある,世界唯一の彼の肖像画候補までが登場して,聴衆をあっと言わせました。公演後の質問では,「モーツァルトとペルゴレージが,フリーメーソンを介してつながっていた可能性」や「ペルゴレージのオペラはナポリ方言で書かれたのか,イタリア語で書かれたのか」など,的確で鋭い質問が続出し,ダリオさんも驚きながらも,それに答えるのを楽しんでいたようでした。ダリオさん,楽しい充実したお話をありがとうございました。(橋都)

第365回例会報告
・日時:2010年10月22日(金)19:00-21:00
・講師:池田 健二 美術史家・上智大学講師
・演題:イタリア・ロマネスクの建築と芸術
・場所:南青山会館2階会議室
 池田さんはご自分で撮影された美しい写真を多数示しながら、イタリア・ロマネスクの魅力を熱く語って下さいました。ヨーロッパ美術の中心は何といってもギリシャ、ローマ時代の古典美術からその復興としてのルネッサンス美術、さらにそれを受け継ぐアカデミズム美術であることは間違いありません。しかしロマネスクの建築には、それとは違ったモダニズムにつながるシンプルな美しさがあり、ロマネスクの彫刻や絵画には、それ以降のヨーロッパ美術とは全く違った素朴な、ときには飄逸な魅力が溢れています。こうした魅力は、古典美術に束縛されたヨーロッパ人よりも、日本人により受けいれられるはず、という池田さんの主張は多くの聴衆の心をとらえました。僕自身もこれまで、イタリアというとルネッサンス、バロックだという観念にとらわれすぎていたのではないかと反省しました。これからはロマネスク芸術の魅力もぜひ味わってみたいと思います。なお池田さんは来年3月から4月にかけて「リグリア・ロンバルディア、ロマネスクの旅」というツアーを企画されているそうです。ご興味のある方は毎日新聞旅行社03-3213-4760にお問い合わせ下さい。(橋都)

第364回例会
・日時:2010年9月21日(火)19:00-21:00
・講師:辻 康介 古楽研究家・歌手
・演題:古楽とその展開-イタリアを中心に
・場所:東京文化会館4階大会議室
 イタリア研究会第364回例会が開かれました。講師は古楽研究家で歌手でもある辻康介さん。今年の夏のパーティーにも参加して、楽しい歌を聴かせてくれましたので、ご存じの方も多いのではないかと思います。演題は辻さんらしく“辻音楽史”と銘打って「古楽とその展開-イタリアを中心に」でした。副題が“CDを聴きながら時空を行き来するDJ音楽史講座”です。その副題のとおり、辻さんはグレゴリオ聖歌から始まる古楽のさまざまな演奏をCDでたどりながら、古楽と呼ばれる音楽分野の演奏家たちが、いわゆるクラシック音楽、ポップス、ジャズ、民族音楽とお互いに影響を与えつつ、今日に至った道筋を鮮やかに示してくれました。多くの方にとっては始めて聴く音楽ばかりだったと思いますが、実に新鮮で、古楽というものに新しく眼を、いや耳を開かされた方も多かったのではないかと思います。大量のCDを担いで、講演に駆けつけて下さった辻さん、どうもありがとうございました。
(橋都)

第363回例会
・日時:2010年8月24日(火)19:00~21:00
・講師:渡辺 晋輔 国立西洋美術館主任研究員
・演題:カポディモンテ美術館展をたのしむ-16・17世紀のローマとナポリの美術
・場所:南青山会館2階会議室
演題は「カポディモンテ美術館展を楽しむ-16・17世紀のローマとナポリの美術」。講師はこの展覧会を企画された国立西洋美術館主任研究員の渡辺晋輔さんです。渡辺さんはこの展覧会に出品されている作品を中心として、イタリア美術がいかにしてルネッサンスからマニエリスムそしてバロックへと変貌を遂げたかを分かりやすく解説して下さいました。そしてナポリにおける絵画が、カラヴァッジョ、アンニーバレ・カラッチという2人の偉大な画家の影響を受けて、独自のスタイルを生み出すに至るダイナミックな歴史を、ナポリの政治的、宗教的な特殊性と重ねて描き出してくださいました。展覧会をすでにご覧になった方にも、これからご覧になる方にも大変参考になった講演であったと思います。渡辺さんどうもありがとうございました。(橋都)

第362回例会
・日時:2010年7月27日(火)19:00~21:00
・講師:白崎容子氏(慶大文学部教授)
・演題:「地獄の底のジャンニ・スキッキ」
・場所:南青山会館2階会議室
「ジャンニ・スキッキ」はご存じのようにプッチーニ唯一の喜劇オペラです。そのお話の元はダンテの「神曲・地獄篇」にあるのですが、じつはその中で、ジャンニ・スキッキに触れられているのは,わずか数行に過ぎません。それを台本作家のフォルツァーノとプッチーニはいかに歌劇に仕立て上げたのか。そこにはダンテのほぼ同時代人の、ある注釈者による注解の存在と、台本作家の想像力との化学反応があるのです。白崎先生はオペラのDVD、「神曲」の多くの画家による挿画を駆使しながら、「神曲」の地獄の構造、そのどこにジャンニ・スキッキが居るのかまでを、くわしくまた楽しくお話ししてくださいました。オペラ「ジャンニ・スキッキ」と「神曲」に対して、新しく眼を開かれた聴衆も多かったのではないかと思います。白崎先生ありがとうございました。 (橋都)

第361回例会
・日時:2010年6月30日(水)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:長神 悟 東京大学文学部教授
 第361回イタリア研究会例会が行われました。講師は東京大学南欧文学科教授・長神悟先生、演題名は「イタリア語の辞書と文法書の歴史:初期の著作を中心に」でした。大変格調の高い、一般にはややなじみの薄い内容で心配しましたが、たいへん大勢の聴衆が集まりました。長神先生は、辞書の中では「クルスカ学会辞典」を、文法書の中ではアルベルティの「トスカーナ語文法」とベンボの「俗語談論」とを中心として、これらの作品の内容と意義とを分かりやすく話して下さいました。またなぜトスカーナ語が標準イタリア語としての地位を確立したかの理由について先生は、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチオという3大作家が居たということの他に、トスカーナ語が語彙、文法の上で、ラテン語からの偏倚が少ないことを挙げられ、これには多くの方がなるほどと納得されたのではないでしょうか。
(橋都)

第360回例会
・日時:2010年6月7日月曜日19:00-21:00
・演題:イタリア演劇と日伊の演劇交流
・講師:高田 和文 静岡文化芸術大学教授
・会場:東京文化会館4階大会議室(上野)
 イタリア研究会第360回例会が開かれました。講師は在ローマ日本文化会館館長の大任を果たして帰国されたばかりの高田和文先生(静岡文化芸術大学教授)です。演題名は「イタリア演劇と日伊の演劇交流」です。先生はローマ在住の間に数多くのイタリア演劇を観劇され,その経験に基づいてイタリア演劇を1.古典演劇、2.翻訳劇、3.現代演劇、前衛演劇に分け、それぞれの例を挙げながら話をされました。たくさんのステージを実際にご覧になった先生のお話は、イタリア演劇の今を生き生きと描くものでした。イタリアのファン、イコール、オペラ・ファンという傾向が強く、イタリアで実際に演劇をご覧になった経験のある方は少ないのではないかと思いますが、昨日の高田先生のお話を聞いて、ちょっと劇場も覗いてみようか、と思われた方も多かったのではないかと思います。  (橋都)

第359回例会
・日時:2010年4月23日(金)19:00-21:00
・演題:水道が語る古代ローマ繁栄史<ローマ水道が世界帝国を作った。そして江戸は?>
・講師:中川 良隆 東洋大学理工学部教授
・会場:南青山会館2階会議室
 ローマには立派な水道があったことはどなたもご存じでしょうが、それがどのようにして作られ、運営されていたかについてはほとんどの方はご存じないのではないでしょうか。中川さんはローマ水道の技術的な側面から、その管理に当たった人間の人間性まで含めて、くわしく語って下さいました。そしてその建設、管理の根本に、上水道としては表層水ではなく湧水を使うべきであるという信念、そして娯楽をも含めた市民の生活環境を整えることによって、帝国の繁栄がもたらされるという信念があった事を示されました。そしてそれが属州の植民都市にまでもたらされた事によって、広大な帝国を長期間維持することが可能になったと述べられ、現代日本にもその理念を敷衍することができることを示されて、聴衆に感動を与えました。
 講演後には技術的問題から、実際の問題に至るまで質問が続出し、イタ研らしい賑やかな会となりました。中川さんありがとうございました。(橋都)

第358回例会
・日時:2010年3月30日(火)19:00-21:00
・講師:柴野 均 信州大学人文学部
・演題:「街並みの美学」再考―イタリアにおける近代都市の形成過程をめぐって
・会場:東京文化会館4階大会議室
 これまでイタリア都市の町並みの美学というと、厳格な規制によって保存されたいわゆるチェントロ(旧市街)の景観だけが問題とされてきました。しかし実際には多くのイタリアの諸都市も鉄道の開通を契機として、19世紀に大規模な都市改造が行われています。柴野先生はその実例をローマ、ミラノのような大都市、アレッツォ、フェッラーラ、ピサのような中小都市を実例として示され、とくに人口集中と不潔さで悪名高かったナポリの都市改造を多くの画像を提示しながら説明されました。そしてイタリアの多くの都市も駅周辺あるいは新市街では、19世紀スタイルの建物が建ち並んで、画像だけではどの都市であるかが分からないほど、画一的な姿になっていることを示されました。たしかに町並みの美学という場合に、保存という観点も重要ですが、人の住んでいる街である以上、ダイナミックな変化を免れることはできず、その観点からの分析が必要であることが良く理解できた講演でした。(橋都)

第357回例会
日時:2010年2月28日(日) 14:00-16:00
講師:橋本 直樹 フィオレンツァ・シェフ
演題:イタリア郷土料理探訪記
会場:南青山会館2階会議室
 講師はリストランテ・「フィオレンツァ」のシェフで(株)カルぺディエムの社長も兼ねておられる橋本直樹氏、演題は「イタリア郷土料理探訪記」。評判の高い講師の魅力的な演題とあって休日にも拘わらず参加者は約60名とほぼ満席の大変な盛況振りでした。午後2時から約2時間半、食材とその生産者、食堂とそのオーナー、料理、土地の風景や歴史など数百枚(?)のスライドを駆使され、時にユーモアを交えての淀みのないご講演は正に「プロの真髄」の迫力に満ちたもので聴衆はすっかり魅了され、時の経つのを忘れました。
<ご講演の要旨>
フランス料理に10年間携わった後イタリア料理に転向、今年で18年目となる。イタリア料理を手掛けて見ると、「長年のフランス料理の流れでどうしても味付けが濃くなり勝ち」、「自分の内部に潜在している”日本のおふくろの味”にも影響される」、「総じて日本のイタリア料理は日本人の好みに合わせる形にmodifyされている」などの点を強く意識させられたので、「この際イタリアに行き、徹底的に”イタリア料理の源流”を究めることに拠り(謂わば”イタリア郷土料理原理主義”)、自分に潜在している”日本のおふくろの味”に逆らい、”イタリアのおふくろの味”を自らに沁み込ませよう」と決意、これを実行に移した。2003年に渡伊、フィレンツエを根拠地として13ヶ月間、全土の郷土料理を探訪した。その後もほぼ毎年、20日間~1ヶ月程度各地の郷土料理探訪を継続している。これら全てを本日紹介することは到底不可能なので、今回は2007年に旅したイタリア中部編(トスカーナ、ウンブリア、ラツィオ)についてお話したい。(この後、北はリグーリアとの州境から南はローマの近くまで、険しい山間の小村落を含む多数の町や村についての郷土の食材・料理の探訪記を披露された。本報告でこれを網羅することは困難なので、詳細は今月中にもイタリア研究会ホームページに掲載される例会報告に譲ることとして、本報告者としては以下ほんの「さわり」をご紹介するだけに止めたい)。
1.ポントレーモリ
 山岳地帯にある州境の町(州境には独特の食文化がある)。ラ・スぺツィアに近い。チンクェテッレから山道を辿る。ここで見出したのが独特のパスタ・「テスタローリ」。むっちりとしていて断面を見 ると縦に気泡が走り、銅鑼焼きの皮の感触にも似ている。山向こうの栗栽培をしている人たちが栗を焼いた後の余熱を利用して作っている。トラットリア・ダ・ブッセ(食堂)では「テスタローリ+オリーブオイル+大蒜+松の実」のパスタ料理が美味で、店の主人はテスタローリはイタリア最古の生パスタ、郷土の誇りと自慢していた。この町にはもう1軒食堂がある。
2.ゼーリ
 ポントレーモリ近くの村。名物は乳のみの子羊。生まれて間もなく未だ草を食んでいないもの。民衆に代わって磔になったキリストを偲び食するとのこと。筋がなくとろけるような素晴らしい味で「羊独特の癖」とは全く無縁。彼らはこれをミディアムではなくて最後迄焼いて食べる。またここからニ山ほど越すと一帯は全て栗の木の林。この地域では嘗ては栗粉が主食で、これでスープ、パン、フリッテッレなどを作っていた。栗粉のパンはグルテンがないのでボソボソして美味しくない上値段も高いので不人気(リコッタチーズ+はちみつには合う)。現在栗粉パンの工房は一軒のみでここから更に山奥の人口数十人の村にあり、ここも訪問した。若い職人が一人真剣そのもので取り組んでいたが、彼も近い内転職する積りと言っていた。
3.コロンナータ イルポッジョ(カッラーラ近く)
 ここの名産はラルデリーヤ(豚の背油-ラルド-の塩漬け)。背油に岩塩、大蒜、ローズマリー、クローブなどを 入れて数ヶ月から1年漬け込む(型は大理石の入れ物)。出来上がったものを極薄に切り、塩気の無いトスカーナのパンに載せて食べる、これは最高に美味しい。ここは縞模様のない大理石の産地で嘗てはミケランジェロも住んでいたところ。昔は石切の労働者も多数いて、コロンナータのラルドは肉体労働に明け暮れるこの人たちのエネルギー源でもあった。
ご講演後の二次会は何時もの「ラ・ボエーム」で。約20名が参加、シェフを交えて活発なイタリア料理談義が続きました。(猪瀬)

第356回例会
日時:2010年1月22日(金) 19:00-21:00
講師:岡田 温司 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
演題:マグダラのマリアとは何者か?
会場:東京文化会館4階大会議室
マグダラのマリアという女性は、じつは福音書には1ヶ所しか登場しません。しかもその記載の内容が微妙に異なっており、初期キリスト教団における女性信者に対する教団内の葛藤が現れているというお話しから講演は始まりました。そして教皇グレゴリウスによって意図的に他の二人の女性と合体させられて、現在に続くマグダラのマリア像が成立したこと、そして反宗教改革運動において、彼女がヒロインになって行く様子を先生は、歴史的、社会学的に考察しながら、多くの画像によって示されました。先生の広範で深い学識によって支えられたお話しは聴衆に感動を与え、講演後にはさまざまな質問が続出しました。この質問はその後に開かれた懇親会の場にまで引き継がれ、夜遅くまで美術史談義が続きました。岡田先生どうもありがとうございました。 (橋都)
第355回例会(2009年12月8日火)19:00-21:00
演題:イタリアチーズ、歴史とロマン
講師:本間 るみ子 輸入ナチュラルチーズ専門店フェルミエ株式会社社長
会場:南青山会館2F会議室
 本間さんは日本におけるチーズ受容の歴史も交えながら、北から南へとDOPチーズの産地をたどりながら、その製法、生活や料理との関わりを楽しく語ってくれました。イタリアにおけるチーズの生産はやはりアルプスに近い北部が中心であり、さらに生産量だけではなく、南部では全く系統が異なり、原料や製法も北部とは大きく異なるチーズが多いことが分かり、イタリアの南北における文化の違いがチーズにまで及んでいることがよく分かりました。 講演後には会員からチーズの歴史、経済的意義から保存法までさまざまな質問が飛び交い、活発な例会となりました。懇親会は近くの「トラットリア・イタリア」で行われ、幹事を担当した川井、市来両運営委員の奮闘により、参加者はチーズ料理とおいしいワインをたっぷりと味わうことができました。 (橋都)

第354回例会(2009年11月20日金)
演題:近代科学の父・ガリレオの業績:天文学を中心として
講師:表 實(慶応大学名誉教授、東北公益文科大学副学長)
会場:南青山会館2階会議室
 今年が世界天文年であることにちなみ、慶応大学名誉教授、東北公益文科大学副学長の表實先生に天文学の話をして戴きました。ガリレオは1609年に人類史上初めて、望遠鏡を用いた天体観測を行い、数々の偉大な発見をもたらしました。彼は近代天文学の創始者であるばかりではなく、観測と実験とに基づく理論の構築を目指したという点で、まさに近代科学の父ということができます。表先生は400年前にガリレオによって可視光線領域での観測からスタートした天文学が、スペクトラム解析、電磁波天文学へと進歩し、さらに現在ではニュートリノ天文学にまで広がっていること、将来は重力波天文学が現れるだろうという、壮大な天文学の歩みを分かりやすく解説してくださいました。講演後には、多くの聴衆から、さまざまなレベルの高い質問が続出。久しぶりの科学分野での講演でしたが、会員のこの領域に対する意識の高さがよく分かった例会だったと思います。(橋都)

第353回例会(2009年10月27日火)
演題:イタリアでの発掘40年
講師:青柳 正規(国立美術館理事長、国立西洋美術館長、東大名誉教授)
会場:南青山会館2階会議室
 第353回イタリア研究会例会が行われました。講師は独立行政法人・国立美術館理事長、国立西洋美術館長、東京大学名誉教授である青柳正規先生です。演題は「イタリアでの発掘40年」。先生は1967年に東大文学部美術史学科を卒業してまもなく、ローマ大学に留学され、1974年からイタリア各地で発掘調査を行ってこられました。2002年からはソンマ・ヴェスヴィアーナのいわゆる「アウグストゥスの別荘」の発掘を行い、すばらしい大理石彫刻2体を発掘されたことは皆様よくご存じと思います。40年にわたる実地での発掘に基づく先生のお話は、実に生き生きとしておりまた深い内容を伴うもので、聴衆一同おもわず聴き入ってしまいました。講演終了後にはさまざまな角度からの質問が飛び交い、あっという間に時間が経ってしまいました。懇親会にも多くの会員が参加して、店の閉店時間まで熱くイタリアについて語り合いました。(橋都)

第352回例会(2009年9月17日木)
演題:イタリア都市の諸相―中世シエナの都市計画
講師:野口 昌夫氏(東京藝術大学美術学部建築科教授)
会場:南青山会館2階会議室
 9月17日(木)にイタリア研究会第352回例会が開かれました。講師は野口昌夫氏(東京藝術大学美術学部建築科教授・工学博士)。演題名は「イタリア都市の諸相―中世シエナの都市計画」です。世界でももっとも美しい都市の一つであるシエナ.そして世界でもっとも美しい広場であるカンポ広場,その成り立ちと構造を野口先生は多数の美しいスライドと図面とで示してくださいました.3つの尾根がぶつかるところに成立したという地形的な制約を生かしながら,街が出来上がったところにシエナの街の美しさの原点があること,そして広場を劇的に見せるさまざまな仕掛けが存在することが,われわれにも良く理解できました。それに較べるといささか奇妙にも感じられる,未完に終わった大聖堂の改造計画についても,現場の写真と図面とを対照させながらのお話はきわめて興味深いものでした。時間の関係で質問の時間がなくなってしまいましたが,その後の懇親会には予想以上の人が集まり,時間も忘れてシエナのそしてイタリアの都市の美しさについての議論が続きました。野口先生,本当にありがとうございました。 (橋都)

第351回例会(2009年8月31日月)
演題:銅版画家としてのピラネージ
講師:佐川 美智子氏 (町田市立国際版画美術館学芸員)
会場:東京文化会館4F大会議室
 8日31日第351回のイタリア研究会例会が開かれました。折からの台風接近の中,参加を取りやめた方もおられたようですが,熱心な参加者が集まりました。講師は町田市立国際版画美術館学芸員の佐川美智子さん,テーマは「銅版画家としてのピラネージ」です。佐川さんは版画とは何か,銅版画の種類,といった基本から話をされた上で,エッチング画家としてのピラネージの魅力について語られました。同じローマの風景であっても,凡庸な画家による同じ場所の風景がピラネージの手にかかるとまったく違った魅力あるものに変貌することを実際の銅版画を使って示してくれました。こうしてピラネージの銅版画は,美術界だけではなく,文学の世界においても多くの影響を与え続け,またピラネージの死後にもプリントされ続けることにもなったのです。今回のお話で銅版画に興味をもたれた方も多かったのではないでしょうか。現在,町田市立銅版画美術館では「版画がつくる驚異の部屋へようこそ!展」が開かれています。ぜひお出かけ下さい。(橋都)

第350回例会(2009年7月23日)
演題:イタリアの格差社会
講師:石橋 典子 翻訳家
会場:東京文化会館
 7月23日(木)に第350回のイタリア研究会例会が行われました。講師はミラノ在住の翻訳家、石橋典子さん、演題名は「イタリアの格差社会」です。もともとイタリアはヨーロッパの中でも格差が著明な国といわれていますが、最近はその格差がますますひどくなっているといわれています。石橋さんは、永年のイタリア在住の経験に基づき、またさまざまなデータを示しながら、イタリアの格差についてお話をしてくださいました。また最近のイタリアにおける格差の拡大にベルルスコーニ政権が果たした役割が非常に大きいことも指摘されました。ドイツの社会科学者マックス・ウェーバーには「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という名著があります。イタリアはもちろんカトリックの国であり、その意味で北ヨーロッパのような資本主義は発達しておらず、イタリアの資本主義はカトリック的資本主義である、という指摘には,なるほどと思わされました。(この報告は会員の中村正董さんによるまとめを参考にしています:橋都)

第349回例会(2009年6月25日)
演題:イタリア現代詩を読み解く3つの鍵
講師:辻昌宏 明治大学教授
会場:南青山会館
 6月25日,イタリア研究会第349回の例会が行われました。演題は「イタリア現代詩を読み解く3つの鍵」,講師はイタリア文学,英文学研究者である明治大学教授の辻昌宏先生です。いささか難しそうな題名に恐れをなしたのか,いつもより聴衆が少なめでしたが,辻先生のお話は非常におもしろく分かりやすく,また示唆に富んでおり,出席された方々は得をした気持ちになったのではないかと思います。イタリア現代詩を読み解く3つの鍵とは1.詩人の居場所,2.定型詩,3.キリスト教的世界観です。世界における自分の居場所の無さ,韻や一行の長さといった詩の形を守っているかどうか,キリスト教的世界観もしくはそれに代わる世界観を持っているかどうか,この3つの点に注目して現代詩を読むと,見えてくるものが沢山あるというのがポイントです。最後にヴァルドゥーガという女性詩人の超絶技巧的しかも肉体感覚に根ざした詩が紹介され,講演は終わりました。講演後には,詩と散文との違いはどこにあるのか,韻を踏まなくなったのは意図的なのか,やむを得ずなのか,ダンヌンツィオの現代における評価などさまざまな質問が続出しました。辻先生は「イタリア現代詩の部屋」というブログで精力的にイタリア現代詩の翻訳を続けておられます.ぜひ覗いてみてください。 (橋都)

第348回例会(2009年5月16日)
演題:究極の宴,バンケットへようこそ:ルネッサンスイタリア宮廷の饗宴
講師:弥勒 忠史
会場:南青山会館
 5月16日に行われたイタリア研究会第348回の例会は,カウンターテナー歌手弥勒忠史さんによる「究極の宴,バンケットへようこそ:ルネッサンスイタリア宮廷の饗宴」という講演でした。弥勒さんはまずご自身が歌われた「愛しアマリリ」のCDをかけ,カウンターテナーの声の美しさで聴衆の度肝を抜いてから講演を始めました.まずなぜ声楽家である自分がルネッサンス宮廷のバンケットなどというものの研究を始めたか,そしてイタリア留学中に「Saint Stomach(聖胃袋)」とあだ名を付けられたというグルマンぶりを彷彿とさせる,当時のバンケットで供された料理の数々の話,そしてバンケットの重要な出し物である音楽の話へと進みました。最後にはわれわれがイタリア貴族のバンケットに招待されても恥をかかないようにと,当時の舞踏の一つであるパヴァーヌのステップを実習して講演は終わりました。参加されたみなさまは,当時のバンケットが単なる宴会ではなく,一大パーフォーマンスであったことに感銘を受けるとともに,バンケットで供された料理の豪華さと量とに驚嘆して,現代イタリア料理の源を再認識されたのではないかと思います。(橋都)

第347回例会(2009年4月17日)
演題:画祭を通して見た現在のイタリア映画
講師:岡本 太郎
会場:東京文化会館4F大会議室
 岡本太郎氏(ライター)は2001年の第1回イタリア映画祭以来,ゴールデンウイークの定番となったイタリア映画祭の作品選定に携わっておられます。そのお話「映画祭を通して見た現在のイタリア映画」はその経験を生かした実に興味深くまた幅広いものでした。フェリーニ,ヴィスコンティ,パゾリーニ,アントニオーニらの巨匠たちの後,80年代,90年代とやや低調であったイタリア映画が,若い監督たちの登場によって活気づいている状況を生き生きと描写され,みなさんイタリア映画祭への期待がいやが上にも高まったのではないかと思います。今年の映画祭で上映される12作品はいずれも現在のイタリア映画の現状を映し出す素晴らしい作品揃いのようです,ご期待ください。イタリア映画祭についての情報は下記のURLをご覧ください。(橋都)
http://www.asahi.com/event/it09/

第346回例会(2009年2月25日)
演題:イタリアの歌劇場と音楽史跡
講師:牧野 宣彦
会場:東京文化会館4F大会議室
 牧野さんはオペラを見るために1998年からイタリアに住み始め、現在もイタリアと日本を往復しています。オペラを見るのに最も適 している場所が、イタリアのほぼ中央に位置するボローニャです。イタリアが統一される前、スペイン、フランス、オーストリアなどの外国の勢力によって国土は支配されていました。そして、為政者たちは、一つは民衆の高まるエネルギーを沈静化させるために、また己の権力と富を示すためにオペラ劇場を建設しました。その為イタリア各地に美しい歌劇場が点在しています。それらのイタリアの歌劇場とイタリアの音楽史跡を写真で紹介し、牧野さんとオペラとの出会いや劇場での思い出などを話していただきました。(橋都)

第345回例会(2009年1月28日)
演題:イタリアの幸せになるインテリア
講師:戸倉 容子
会場:上野 東京文化会館4F大会議室
 幼少時から「人を幸せにする仕事をしたい」との希望を抱きこれを具現すべく病院のナースになったが、その仕事を通して「人間は環境で生き方が変わる。豊な環境を通して人を幸せにしよう」との考えを持つに至り、インテリアコーディネー会社を起業、98年建築デザインを学ぶべくミラノに留学、世界的に著名な建築家であるパオロ・ナーバ氏に師事した。イタリアに滞在中多くの街々を訪ね、個人の住まいや街全体に見られる個性溢れる建築空間とそこに集い人生を大いに謳歌する人々に深い感銘を受けた。ここから「家は大切な人との一瞬一瞬を楽しく豊かに生きるための舞台。家を手段としその人の人生を輝かせたい」、「人間が生まれてから最後に死ぬまでTOTALで幸せを感じる環境を提供したい」などを基本的なコンセプトとして、豊なライフスタイルを実現すために「回廊の家」、「中庭を有するマンション」、「路地を持ったマンション」などなど、数多くの企画を提案し、実行している。
 「イタリアの幸せになるインテリア」の底流には以下8つの法則が見出されるが、そこには「人生を楽しみながらデザインして行こう」「自分が今日どう生きるか毎日を楽しむためにインテリアを楽しもう」「家族の絆を強めよう」「先祖から子孫へ伝統を守りながらインテリアを作ろう(”命のリレー”)」と言ったしっかりしたコンセプトが存在している。
<8つの法則>
1. 玄関はムーディに
2. キッチンはマンマの城
3. リビングは自己表現の場所
4. 夢はご一緒に...
5. 我が家だけのバスルーム
6. 外とつながるテラス
7. 帰るのが楽しくなるアプローチ
8. インテリアが街になる。
 冒頭華やかな音楽とともにイタリアの魅力溢れるシーンをふんだん取り入れたドムスデザインの素晴らしいビデオが上映され、思わず自らがイタリアに身を置いているような錯覚に捉われました。その後何れも豊かな感性とセンスを感じさせる100枚を超すインテリアや街作り写真を映しながら様々な企画・ご提案を具体的かつ生き生きとお話されましたが、これはほぼ満席の出席者を終始引き付けて放さず、2時間近くがあっと言う間でした。戸倉さん本当に有難うございました。(猪瀬)

第344回例会(2008年12月3日)
演題:イタリア経済-停滞の構造
講師:松本千城(まつもとちしろ)国税庁長官官房国際業務課課長補佐
 松本さんは2005年から2008年の間,在イタリア日本大使館経済班に勤務され,帰国されたばかりです。イタリアで見聞したこと,調査したことに基づき,1990年代のイタリアにおける経済停滞の要因を分かりやすく解説していただきました。その要因として(1)ローテク偏重の産業構造,(2)低い教育・研究開発投資水準,(3)強い規制,(4)零細な企業規模,が挙げられました。そしてすでに一人あたりGDPではスペインに追い抜かれているという衝撃的な事実も明らかになりました。講演後には質問が続出,じつに活発な会となりました。その中で,質問者のお一人からの「いくら経済が停滞しているといっても,イタリア人は生活をエンジョイしているではないか」という発言が,会員の気持ちを表しているように思いました。松本さん,どうもありがとうございました。なお会場の南青山会館,懇親会場の「ラ・ボエーム」ともにとても好評でしたので,今後,東京文化会館と合わせて,この会場も積極的に使うようにしたいと考えています。(橋都)

第343回例会(2008年11月14日)
演題:ローマの地下世界ーカタコンベ研究の現在
講師:山田 順(やまだ じゅん)西南学院大学
 ローマの街には、古代ローマの建造物がそのまま残っていたり、それらを取り込んだ新しい建造物が数多く残されている。道路は、1,500年前ほど前からほとんど変わっていないし、衛星写真を見ると、古代の競技場や劇場などの痕跡が見て取れる。現在のローマの地面を6~8メートル掘り下げると古代ローマの地面に達して、何らかの遺構が現れる。古代ローマの城壁の外側の地下に、現在分かっているだけでも50箇所以上のカタコンベが残っている。カタコンベはキリスト教徒の墓であるが、ユダヤ教徒のものもある。カタコンベは聖ペテロ(サン・ピエトロ)の時代から、キリスト教がローマ帝国の国教になる頃まで作られたものである。その後は墓は地上に作られるようになったが、迫害時代の聖人が埋葬されていることから、巡礼地として多くの人々が訪れるようになった。ゲルマン人の大移動によって、ローマが脅かされるようになると、聖人の遺骨は城壁内の教会に移されて、カタコンベ自体が忘れられていった。19世紀になって、再びカタコンベが研究されるようになったが、いまだに研究者は少なく、人々の目に触れる機会もほとんどない。カタコンベは盗掘に遭っているものも多いが、さまざまな遺品や壁画が残されている。ことに壁画からは当時のキリスト教やローマの習俗などを知ることができて興味深い。(佐久間)

第342回例会(2008年10月30日)
演題:地中海に於けるイタリアビーチの魅力:やはりイタリアのビーチが一番!
講師:机 直人(つくえ なおと)
 今話題の外資系投資銀行社員から写真家に転身した異色の経歴を持つ机さんのお話は,たんにイタリアビーチの美しさだけではなく,それを楽しむイタリア人の魅力にも及んで,やはりイタリアのビーチが一番!という結論には,とても説得力がありました。映写されたたくさんの美しい写真,ため息をつくほど美しい海の青さと砂の白さ,日本の海岸とは違ってまばらな人影,多くの方がイタリアビーチにいってみたくなったのではないでしょうか。そこで特別に昨日参加されなかった方にも,机さんお勧めのビーチをそっとお知らせしましょう。
1. 南サルデーニャ:南西のキア周辺.南東のビラシミウス周辺.
2. シチリアの離島:エガディ諸島とエオリエ諸島.
3. プーリアのガルガーノ半島以南:モノポリ郊外のカピトロ浜.トッレ・ドルソ.マリーナ・レウカ.   (橋都)

第341回例会(2008年9月21日)
演題:“ジョットの遺産”展にちなんで
講師:小佐野 重利
 損保ジャパン東郷青児美術館で行われている展覧会の企画者のおひとりである小佐野先生にご講演をお願いしまし。先生は「台風で講演会が中止になるのを期待していたのですが」とおっしゃりながらも,そのお話は次第に熱をおび,2時間を超える講演となりました。内容は今回出品されているジョットの作品解説はもとより,日本におけるジョット受容の歴史,ジョットの絵画における革新性,スクロヴェーニ礼拝堂の構造とジョットの壁画の有機的関連にまで及びました。さらに絵画の制作年代決定のために,他の絵画はもとより文字資料,写本などの資料をいかに利用するかといった専門的な点にも触れられ,われわれ素人も美術史研究の面白さの一端を知ることができました。出席者からは「内容が専門的だったけれど面白かった」との声が上がっていました。小佐野先生どうもありがとうございました。(橋都)

第340会例会(2008年8月27日)
演題:Giro d'Italia イタリア1周自転車レース
講師:橋都 浩平 イタリア研究会事務局・運営委員会委員長
 8月27日,イタリア研究会第340回例会が行われました。演題は「Giro d'Italia:イタリア1周自転車レース」で,講師は運営委員長である僕が務めました。自転車レースとはどういうものかをご存じない方がほとんどと思われますので,まず自転車レースとはどういうスポーツで,どのような特長があるかを陸上競技のマラソンと比較しながら解説しました。そしてGiro d'Italiaをほぼ同じ規模の自転車レースであるツール・ド・フランスと比較しながら,その歴史を述べました。その後に過去のイタリア人名選手たちを,自転車レース史上最大のライバルと目されているファウスト・コッピとジーノ・バルタリを中心に紹介しました。そして最後に喜劇俳優トトが主演し,この2人が実際に出演している1948年の映画「Toto al Giro d'Italia」を上映して,講演を終わりました。今後みなさんが多少でも自転車レースに興味を持っていただければさいわいです。講演後には,ドーピング問題や自転車レースの戦略についての質問も登場し,さらに田辺さんからは有名な1950年代のコッピの不倫スキャンダルの報道の思い出話も披露されて例会は幕を閉じました。ご参加のみなさん,僕のつたない話におつき合い下さりありがとうございました。(橋都)

第339回例会(2008年7月22日)
演題:プーリア地方の海洋都市とその再生:ガッリーポリとモノーポリ
講師:陣内 秀信 法政大学教授
 さすが大人気の陣内先生,会場の東京文化会館大会議室はまさに満員の盛況でした.陣内先生はご自分や教室の学生さん達が撮った写真,作成した図面を多数示しながら,プーリア地方の港町の現状とその再生への動きについて,熱く語ってくださいました。かつて交易やオリーブオイルの輸出で富を蓄えたプーリアの海洋都市が,19世紀の新市街の建設とともにチェントロ・ストリコが衰え荒廃してゆくという共通の歴史をたどりながらも,この10年めざましい復興と再生を遂げていることが,みごとに示された内容でした。聴衆の多くは日本の地方都市の現状と比較しながら,講演を聴かれたことと思います.講演後にはこうした観点からの質問が多く出ていました。それにしても陣内先生のお話はいつもながら熱気に溢れ,また常に前向きなので,出席のみなさんも元気をもらうことができたのではないでしょうか。懇親会にも通常の例会参加者ほどの人数が集まり,大盛況でした。(橋都)

第338回例会(2008年6月20日)
演題:二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-
講師:後 房雄
 この後教授の講演を聴いた人は,選挙に対する見方がガラッと変わったのではないか。イタリアの選挙の話だと思っていたら,イタリアの選挙を通して見る選挙制度のあり方,特に日本の現状分析だった。先ず,比例代表制と小選挙区制の意味。「比例代表制選挙が最も民意を反映する」と思ったら大違い。比例代表制選挙では,小政党でも幾ばくかの議席を得られ,政党の乱立になり易い。単独過半数を取る政党がない場合,選挙後に連立を組んで政権を握るために,往々にして公約と程遠い妥協が,選挙民のあずかり知らぬ所でなされる。いっぽう小選挙区制では,一党で過半数を取れそうもないときには,最大の支持率を得られる連立を組めば選挙に勝てる。選挙前に連立を決め,マニフェストを掲げて選挙を行うことは,選挙民にとっても安心して投票できることになる。政党乱立による政情不安定と選挙後の妥協の連立政権の弊害から,イタリアは1993年に小選挙区制を取り入れた。選挙に勝つためだけの連立が行われ,4回の選挙で右派と左派が2勝ずつを挙げた。そして今年のイタリアの選挙は,ベルルスコーニの中道右派連合が,中道左派連合から政権を奪い返した。ところが1994年に,憲法を変えるために,不完全ではあるが小選挙区制を取り入れた日本では,自民党が悲願の3分の2議席を得ることはなかった。その後の紆余曲折の中で,連立さえ組めば野党が勝てると分かっていながら,勝つための連立を組んだのは自民党で,結果として4連勝を成し遂げた。日本共産党が,勝つことのない全ての小選挙区に候補を立てていたことは,自民党を支えることに外ならなかった。その後2005年にイタリアの選挙制度が変更され「小選挙区制から比例代表制に逆戻りした」と日本のマスコミは報道したが,第一党が全議席の約54%を得るというもので,比例代表制のように見える小選挙区制である。連立で政権を取れることを良く理解して,大連立を繰り返して来たイタリア諸政党だが,ここに来てその弊害を避けるために,連立よりも「単独政党で政権を取ろうとする」動きが出てきている。それが本日の演題「二大政党連合から二大政党へ -イタリア2008年総選挙-」の意味するところであった。(佐久間)

第337回例会(2008年5月21日)
演題:プッチーニの女性観
講師:香原斗志(かはらとし)
 早大教育学部卒。イタリアオペラを中心に批評活動を展開。雑誌や公演プログラムへの執筆多数。音楽サイトclassic 1st等にオペラ関連連載中。著書「イタリアを旅する会話」(三修社)。日本ヴェルディ協会,日本ロッシーニ協会会員。
 プッチーニの生誕150年を記念する講演でした。プッチーニのオペラに登場する女性たちはいずれも,現実の世界にはあり得ないほど,純粋に愛に生き,男性に尽くしています.じつはこれは台本の段階で,プッチーニが徹底的に駄目出しをしたことによるもので,原作とはずいぶん違っていること,しかし音楽が甘美で説得力があるために,聴衆はヒロインに感情移入してしまうことを,香原さんはラ・ボエームやマダム・バタフライを例に挙げて説明されました。そしてプッチーニの実生活では,ドーリア・マンフレディという若い小間使いが,プッチーニの奥さんの嫉妬がひとつの原因となって自殺している こと,彼女がトゥーランドットのリュウのモデルとなっている可能性を示唆されました。これは学問的には証明ができないまでも,とても説得力のある考えのように思われ,今後この歌劇を鑑賞する場合に,ひとつの手がかりになるように思われました。(橋都)

第336回例会(2008年4月24日)
演題:地域づくりの新潮流―スローシティ・アグリツゥーリズモ・ネットワーク
講師:松永安光氏,建築家,近代建築研究所代表取締役社長,
   東京芸術 大学大学院非常勤講師,前鹿児島大学教授
 松永先生のお話は,イタリアで生まれたスローシティーの概念から始ま り,そのイタリアでの実例,鹿児島での取り組み,そしてネットワーク論まで非常に幅広いかつ示唆に富むものでした。イタリアと較べたときの日本の地方都市の問題点,とくに地方自治体の首長,官僚のレベルや志の違いが,日本の地方の現状をもたらしているという指摘は,先生の 実際の体験に基づくものであるだけに,説得力がありました.今後はネットワークを生かし,都会とのコラボレーションにより,発展する可能性が示されて,共感を覚えた方も多かったのではないかと思います。(橋都)

第335回例会(2008年3月31日)
演題:美術の中のヴィーナス:「ウルビーノのヴィーナス」展を楽しむ
講師:渡辺晋輔,国立西洋美術館研究員
 渡辺さんのご講演は,ギリシャ・ローマ世界で成立したヴィーナス神話とそれに基づいたヴィーナス像が,ルネッサンスにおいてどのように再生したのか,ルネッサンスの芸術家たちが,いかに古代のヴィーナスを自分のものとしていったかのお話から始まりました。そしてティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」の源流がどこに求められるのか,作者がそのヴィーナスに現実感を与えるためにどのような工夫をしているのか,モデルは誰であったのか。そしてこの作品が後世にいかに大きな影響を与えたか,を沢山のヴィーナス像を示しながら語られました。実に興味深いご講演で,まだ展覧会をご覧になっていなかった参加者は,明日にでも見に行きたいと思ったのではないでしょうか。講演後には予想以上に沢山の幅広い質問が続出し,楽しい講演会となりました。(橋都)

第334回例会(2008年2月29日)
演題:中世の城塞集落を巡って
講師:西村 善矢
 イタリアとくにトスカーナの景観に特徴的な丘の上の小都市「カステッロ」,その歴史的な成り立ち,都市コムーネとの関係を沢山の美しい写真とともに語っていただきました。カステッロの中にはエトルリア時代に起源を持つものもあること,これまで主張されてきたようにカステッロの成立の目的が異民族からの防御ということよりもむしろ,領主の権力を発揮するための装置という側面が強いこと,などわれわれの知らない貴重な知識を披露していただき,本当に勉強になりました。 (橋都)